日本ワインコラム | 山形ワインバル2023
10周年記念となった「山形ワインバル2023」が7月1日、山形県上山市の上山城周辺で開催された。上山産ブドウを使用したワインや、山形県内外の多種多様なワインが楽しめる東北最大級のワインイベントで、今年は初参加の10社を含む47ワイナリーが出店するという。
10周年記念だし、これは行くしかな~い!ということで、「ラ・フェト・デ・ヴィニュロン・ア・ヨイチ2022」( →イベントの様子はこちらから )の時と同じメンバーで、意気揚々、参加してきた。どうやら鼻息荒く待ち構えていたのは我々だけではなかったようで、今回の参加者は過去最多の約3800人となったそうだ。
イベント当日は、朝から沢山の人が「かみのやま温泉駅」に降り立った。東京駅から山形新幹線で約2時間半なので、朝に新幹線に乗ればイベントに十分間に合う。乗り換えも必要ないし、気軽に来られる距離が丁度いい!
去年は猛暑の中での開催だったそうだが、今年は時々雨がぱらつく曇り空。カラッと晴れた空も捨てがたいが、ワインを飲みながら色々と動き回るので、曇り空で気温が低い方が体力的にはありがたい。
それに曇り空も何のその。色んな人の話し声や笑い声が飛び交うにぎやかさ、出展者と参加者の熱気と気合で、アツイ会場になっているのだ。
花より団子な我々は、飲むこと&食べることに集中し過ぎて見落としていたのだが、浴衣の無料着付けサービスが用意されていて、浴衣姿の参加者をチラホラ目にした。浴衣の艶やかな色が涼を運んでくれ、お祭り感が増してワクワクする。みんな待ちに待っていたんだなぁと思わずにはいられない。
長く続いたアイドリング期間
今でこそ山形ワインの認知度は高く、山形ワインバルの来場者も多いが、この認知度を獲得するまでの道のりは、決して平たんではなかった。
さくらんぼを始めとする果物栽培が盛んな果物王国としても知られる山形県。ブドウ栽培も盛んで、生産量は全国3位。そして、その良質なブドウで造られるワインの生産量は全国4位と、日本ワインにおける重要な産地の一つだ。1870年代には山形県内でワイン造りが始まっていて、ワイン造りの歴史も長い。
その中で、上山市は蔵王連峰の裾野に広がる周囲を山で囲まれた盆地にあり、標高の高い場所に広がるブドウ畑は昼夜の寒暖差が大きく、比較的降雨量も少なく、水はけよく豊かな土壌で、ワイン用ブドウの栽培環境として非常に恵まれた場所だ。上山におけるワイン造りの歴史も長い。老舗「タケダワイナリー」は、明治初期より果樹栽培を開始し、1920年にワイン造りをスタートする。そして、1970年代には全国的にも先駆的に欧州系ワイン品種の栽培に着手、国内外でも高く評価されており、ご存知の方も多いだろう(→タケダワイナリーについてはこちらから )。
▲ 町を散策していると遠くにブドウ畑が見える。しかし、である。そこからが長かった。ワインバル開催10周年を記念して開催された「山形ワインバル前夜祭 セッション&グリーティング」で明かされたのだが、ワインバルがスタートした2014年の段階では、依然としてタケダワイナリーが上山で唯一のワイナリーだったそうだ。ポテンシャルの高い上山や山形でワイン造りを目指す人は存在したものの、行政のフォローが殆どなく、他県との競争に負けていたそうだ。今のこの盛り上がりからは信じられない姿である。
昔、非常に有名な醸造家がこの地でワイナリー建設を検討されていたが、結局諦めて他県に移動されたという話も出た…歴史にタラレバはないが、もしあの時…と考えずにはいられない。
上山の産地化に向けて一気呵成に動き出した
誰もがこのままでいいと思っていた訳ではないのだろう。ブドウの造り手やワイナリー、市内の温泉旅館のメンバーや観光物産協会を始めとする観光関係者、金融機関、そして行政等、関係者が集まり知恵を出し合い、様々な取組みを始めていく。2013年にかみのやまワインキックオフイベントを開催し、翌年2014年には「やまがたワインバルinかみのやま温泉」がスタート。2015年には「かみのやまワインの郷プロジェクト」が始動し、ワイン用ブドウの生産拡大や後継者の育成、ワイナリーの育成・誘致、ワインツーリズムやワイン飲食店の開店等、ワインを起点にした地域活性化に向けたワン・ストップでの支援体制を構築した。また、2016年には上山がワイン特区に認定され、産地化に向けた動きが加速し始めたのだ。
この10年でダダダダダダーっとこれまでの遅れを取り戻し、他の産地に負けない支援体制と盛り上がりを見せているという訳だ。その結果、現在上山にあるワイナリーの数は4軒にまで増え、ワイナリー開設を目指す人の流入が続いている他、ブドウ栽培の就農者も増えているという。
こうして、我々が「山形ワインバル」イベントを楽しめるのは、生産者と観光関係者や行政が本音をぶつけ合い、手を取り盛り上げてくれているからなのだ。有難い!
思い切り楽しもう!
生産者と観光関係者や行政が手と手を取り合って作り上げてきた「山形ワインバル」。参加者としては、生産者の想いに耳を傾け、気持ちよく飲み、何よりもイベントそのものを楽しむことが大事だろう。
今回のイベントでは47のワイナリーが出展し、200種類以上のワインが勢ぞろいした。会場は、上山城周辺に5つのスペースが用意されている。まずは受付に行き、グラス、グラスホルダー、そしてワイン引き換えチケットをもらう。10枚チケットが足りなくなれば、再購入することも可能になっているので、ご安心を。とは言え、チケット1枚でOKなワインもあれば、複数枚必要なものもあるので、どう使うかは頭のひねりどころだ。
我々は、余市のイベント参加時に編み出した、1人が頼んだワインをみんなで分けて楽しむという戦法で臨むことにした(表現が大袈裟。笑)。しかも、元々は参加予定のなかった仲間から、急遽イベントに参加することにしたとの連絡が入り、4人で周れることに。最大40杯は全員で楽しめるではないか!200には到底及ばないが、中々の数だ。
こちらのイベント、ワインだけでなく、食べ物の屋台も充実しているのが非常に嬉しい。少量ずつとはいえ、いつの間にか結構な量を飲んでいるということになるので、時々、お腹に食べ物を入れられ安心だ。今回大ヒットだったのが、生ガキ!!!大きくてプルップルの生ガキを贅沢に口に放り込むと、磯の香りがふわ~と口の中に広がって、クリーミーな味わいも最高である。そこに近くのブースから仕入れた白ワインを合わせ昇天。これだけで来た甲斐があるというやつだ。山形県民のソウルフード、玉こんにゃくも発見。ご当地グルメとワインのマリアージュも堪能できるので、皆さんにはぜひ色々と試して頂きたい!新たな発見があるはずだ。
内臓を守るという意味で、食べ物と同時に気を配りたいのが水分補給。イベント開催時は曇り空ではあったが、蒸し暑い天気。会場間を歩き回るので、更に喉が渇く。歩いていると時折、「ワインは水分ではありませ~ん。ワインだけではなく、ちゃんと水分補給しましょ~う。」というアナウンスが流れてくる。一度、間違って「ワインは水分で~す。」と流れた後、訂正アナウンスがあった時はクスリと笑ってしまったが、正しく水分補給しつつ、ワインを楽しみたい。
ワインだけではなく
山形県の南東部に位置する上山は、城下町・温泉町・宿場町の3つの顔を持ち合わせる全国でも珍しい街だ。折角足を運んでいるのだから、ワインと共に町を味わい尽くしたいところ。
▲ イベント会場周辺をプラプラしていると、こんな涼やかなアジサイに出会った。配色も美しい!最寄り駅の「かみのやま温泉駅」という名前の通り、開湯560年を超える歴史ある温泉が駅から徒歩圏内にある。イベント会場の近くには足湯スポットや日帰り温泉施設もあるので、イベントに絡めて楽しむのもよし。もし、前後泊することができるのであれば、ゆっくり温泉宿で日頃の疲れを癒すというのも捨てがたい。
▲ 温泉街といった風情の看板がいいじゃないか。また、時間が許せば、駅から車で15分程走らせたところにある、羽州街道の宿場町・楢下宿(ならげしゅく)にも行きたい。茅葺屋根の古民家を見学することができ、タイムトラベルしたような雰囲気が味わえるらしい。我々は今回楢下宿には行けなかったので、次回はもう少し時間に余裕を持たせて足を運びたい!
全然時間ないなぁという方であっても、ご心配なく。イベントに参加すれば、城下町としての上山はもれなく堪能できる。イベント会場が上山城周辺なので、ワイン片手にお城周辺を散策できるのだ。武家屋敷通りも会場近辺にあるので、プラプラ歩くのも楽しい。我々もワイン片手に散歩させて頂いた。とある武家屋敷の敷地内で、お茶のお接待をして下さった地元の方ともお話でき、大満足!こういう出会いがあるから旅は面白い。
次の10年に向けて
前夜祭では、過去10年の振り返りに加え、今後10年に向けた展望についても、発表があった。そこで話題に上ったものの中に、温暖化対策と産地化に向けた更なる取組みがある。温暖化については、世界的に問題提起されて久しいが、上山地域では、この40年間でワイン用ブドウ栽培における有効積算温度が432℃上昇したとのことで、月ベースでみると2℃程上がっているというのだから驚きだ。これまで積算温度が足りないと言われていたカベルネ・ソーヴィニヨンは、今では適地と言われる程に。
一方、リースリングやピノ・ノワールについては積算温度が大きすぎるようになってきた。上山で育てるのに適した品種の見極めが重要との発言をされる生産者が多く、同時に、こういった取り組みは地域全体で行う必要があるとの指摘も目立った。改めて、日々、自然環境と対峙しながらブドウ栽培に向き合う生産者に頭が下がる思いだ。
地球温暖化への対応も含め、課題には地域全体で取り組んでいく。その為には、上山がワイン産地として認知され、関係者が一致団結する必要があるが、そのための取り組みは労を厭わない。そういう生産者と行政の意気込みを感じた。その中で、今年4月にオープンしたワイナリー「DROP」の取り組みは、地域活性化、産地化の観点から面白い。ワイナリーは市街地にあり、駅から徒歩圏内だ。そのワイナリーにはワインスタンドが併設されていて、DROPやかみのやま産ワイン以外にも、世界各国のオススメワインや軽食を楽しめるスポットとなっている。ワインを通じて、市民と観光客が交流できる場を提供したいとしてオープンされたそうだ。
実は、前夜祭セッションの後、自然な流れで初対面のセッション参加者と一緒にお邪魔することになった。他にも沢山のセッション参加者が来店し、気付けば皆でワインを飲み、笑い、楽しい時間を共有するまでに。こういう楽しい思い出が増えれば増えるほど、上山ワインのファンが増えるに違いない。素敵な取り組みだ。
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「かみのやまワインの郷プロジェクト協議会」が発行する「かみのやまワイン」というパンフレットに、スペインの画家サルバドール・ダリの言葉として、次の一文が紹介されている。
『偉大なワインを作るには、次なる人たちが必要である。狂人がぶどうを育て、賢者がそれを見張り、正気の詩人がワインを造り、愛好家がそれを飲む。』
確かにプロダクトとしてのワインを作るのは、ブドウを栽培する人であり、ワインを醸造する人かもしれない。しかし、我々消費者が「飲む」という行為で、そのワインが更に成長することになる。愛好家である我々消費者も「偉大なワイン」作りには欠かせないピースなのだ。
来年は次の10年に向けた最初の年。新たな気持ちで我々も参加したい!ぜひ皆さんもご一緒に!
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