日本ワインコラム | 北海道・登町 山田堂
余市で最も新しいワイナリーの一つ「山田堂」を立ち上げた山田雄一郎さんは、スペインの醸造学校で学問を修めた経験を持つ。選んだ土地はリベラ デル ドゥエロ、リオハに次ぐスペインを代表する銘醸地だ。
リベラ デル ドゥエロは、スペインの中でも例えばリオハに比べて新興的な地域で、そのようなところにも惹かれました。
現地のワイナリーの跡取りたちの中で、葡萄の栽培から醸造までを修めて帰国した山田さんは、その脚で山梨県へ向かった。日本で自身のワインを造ることを目指していた彼にとって、歴史、伝統そして何よりも情報の宝庫である山梨県を訪れ、そこでのワイン造りの経験を積むことは必然的なことだった。
将来独立を前提にしていた自分にとって山梨で経験を積むことには大きな意義があると感じていました。それに、日本でワイン造りをするなら、甲州やマスカットベーリーAを知らずにワイン造りは語れないとも思っていました。
機会に恵まれ、1939年創業の老舗ワイナリーである白百合醸造に就職。5年間ワイン造りに携わった。独立のためのステップとしての、ある種修行のような位置づけのワイン造り。その経験を白百合醸造という生産量の多いワイナリーで得たことは、山田さんにとって非常に大きな意味を持っている。
私が在籍していた中規模ワイナリーでの仕込み最盛期では、一日10t以上仕込みました。ワイン約1万本に相当する数です。この時の経験があるので、自分はできる、と思ってしまいます。在籍中は幸いなことに、志の高い先輩方や同期に恵まれ、とても刺激を受けました。この時に学んだことは自分のワイン造りの思想の原点として残っています。
北海道余市へたどり着いたのは2019年。そこでドメーヌ・タカヒコの4人目の研修生となった。
タカヒコさんと出会ったことは大きいです。2017年の冬場に本州のとある酒屋さんの試飲会でお話をきく機会があって。ワインは思想の産物というのは曽我さんに教えてもらったんです。
2020年にドメーヌ・タカヒコでの研修を終えた山田さんは、2021年の3月から同じく余市町内に住居と倉庫、圃場を備えた土地を取得した。 自園が位置するのは、自宅の裏手を流れる小登川(このぼりがわ)という小川を越えた西向きの斜面上。小川に面した畑であるため石が多く水捌けのいい土地だ。そこに現在植えられている前所有者が栽培していたナイアガラは、一部来年に植え替えの予定。そこで山田さんが選んだのがミュラートゥルガウだ。スペインではなくスイス由来の交配品種であるミュラートゥルガウは、ドイツなど冷涼なワイン生産国で広く栽培されている。 ドメーヌ・タカヒコでの研修の中で、北海道の葡萄から初めて山田さんが造り上げたロゼワインにも、主要品種としてミュラートゥルガウを採用した。
引き締まった酸のある品種なのでアルコール度は高くなくてもよいものができるとおもっています。味わいが個人的にすきです。決して派手な味わいではないですが、苦みがあったり、ケルナーみたいに派手な感じでなく、水のような感じがミュラーにひかれた理由です。
自社圃場に加えて、山田さんはドメーヌ・タカヒコにて自社畑「ナナツモリ」の一部の作付けを増やす試みに携わっている。そこで収穫されたブドウの一部は購入しワインにする。ピノノワールなどが植えられており、北海道では珍しい新しい剪定方法の試みも行なっている。
この畑は、傾斜も緩やかなので、余市スタイルの斜めに倒して植えるのではなく、まっすぐ植えるという試験的な仕立てにしました。
山田堂が自身のワイナリーとして使用するのは、さくらんぼを選果するために使用されていた土壁作りの一室と石倉の倉庫。老朽化した内装を山田さんが積極的にDIYでリノベーションした苦労の染み込んだ空間だ。
内装もお金をかけないよう、自分でペンキ塗りをしました。 石倉の蓄熱性を利用して貯蔵庫にしようと思っていますが、断熱性はそこまでないので、これから一年間様子を見ながらどうするか決めたいと思っています。
2021年9月に念願の酒造免許を取得した山田さん。志すのは「低価格でハイクオリティ」なワインだ。
敢えて、「ドメーヌ」を冠さずワイナリーとしての名前を「山田堂」としたことには、自社畑の葡萄だけでなく、買い葡萄でもつくっていきたいという思いがある。自社の葡萄と買い葡萄、双方を駆使して、Yoichi Rose 2019 のような、味わい深いワインが価格安くリリースされることが、とても待ち遠しい。
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