日本ワインコラム | 北海道・余市 キャメルファームワイナリー
ガンベロ・ロッソ「ベスト・ワイン・メーカー」、ワイン・エンスージアスト誌「ワインメーカー・オブ・ザ・イヤー」、イタリアソムリエ協会「ベストイタリアンワインメーカー」。
輝かしい受賞歴をもち現代イタリアを代表する醸造家リカルド・コタレッラ氏。
彼をも魅了し、可能性を感じさせた葡萄畑が余市にある。
キャメルファームワイナリーは、2014年に設立された、新進気鋭のワイナリーだ。食を通じて、日本固有の自然を世界に発信する。世界に誇れるワインを造る。それが地域の活性化に繋がる。キャメルファームワイナリーが抱くそういった想いに共鳴したのが、イタリアでもワイン製造を通じた社会支援を行っていたコタレッラ氏だった。彼の協力のもと土地を探す中で、辿り着いたのが余市町登地区。ドイツのモーゼルやラインガウ、フランスのシャンパーニュ地方などが含まれる「Region 1」。そんな葡萄栽培北限の土地での挑戦の礎となったのが1980年代より30年以上の栽培の歴史を持つ藤本毅さんの農園だ。北海道を代表する栽培家の美しい畑との出会いは、折しも藤本氏が後継者を探していたころのことだった。藤本氏の畑を眼前にしたコタレッラ氏の確信により、2014年以降、キャメルファームワイナリーが畑を引き継き、さらなる改良を目指して栽培に取り組む。
40年以上にわたる余市での葡萄栽培によって培われた知恵や技術、キャメルファームワイナリーの畑となった土地で、藤本氏からそれらを受け継ぐのがワイナリー長の伊藤愛さん。 2014年からキャメルファームワイナリーの栽培に携わる。
「就職氷河期真っ只中の世代で、勤務地:ドイツと書かれた求人に応募したら採用されて。ドイツで4年間、日本食のレストランに勤務しました。そこで海外を見て、今に通ずるポジティブな考え方が身についたと思います。」
キャメルファームワイナリー設立以降、藤本氏の指導を受け、姿勢からノウハウまで吸収し続けた伊藤さん。彼女の管理下にある畑は、明るく清潔感を纏っている。
キャメルファームワイナリーの畑に植えられるのは、ケルナー、バッカス、シャルドネ、レジェント、ツヴァイゲルト、ピノ・ノワールなどが10種類。その中には、新しく植樹された比較的樹齢の若い樹もあるが、樹齢40年のバッカスなど、藤本氏から受け継いだ高樹齢の葡萄も多く存在する。除草剤を使わず草生栽培が行われ、風通しのいいこの畑では、しっかりと凝縮した健全な果実が実を結ぶ。
「南北に垣根が広がり朝から晩まで太陽のエネルギーを受けることができます。
また、海からの風と山からの風が畑を吹き抜けるので、畑にとって良い環境を整えてくれる。雪、風、太陽、海、山、自然のエネルギーがあふれているんです。」
キャメルファームワイナリーに常勤する栽培スタッフは7名。 16haという日本のワイナリーとしては広大な栽培面積を手作業でケアするのは困難だ。そのため、収穫時にはグループのスタッフが集まり、広大な畑の葡萄を素早く摘み取っていく。
畑の緩やかな斜面を降りた東側の道沿いには瀟洒な外観の醸造施設がある。
周辺には小規模のワイナリーが点々とする一方で、その建物はヨーロッパの大規模なワイナリーのそれに劣らないような、規模と設備を有している。2017年に完成した最新の施設で醸造の指揮を執るのはアンジェロ・トターロさん。イタリア人であるにも関わらず、チーズが食べられない奇特な彼は、昨年からワイナリーに参画している。朗らかな笑顔が柔和な印象を与えるが、コタレッラ氏の愛弟子であり、シャンパーニュ地方、エミリアロマーニャ州を活動の中心に醸造家としてきらびやかな経歴を持つ。彼1人でも、醸造家としてトップクラスであるにも関わらず、イタリアにいるコタレッラ氏と密にコミュニケーションをとりながら、醸造プロセスを進めていくというのだから、品質へのこだわりが恐ろしい。
ワイナリーへ入ると、「サニテーションが何よりも重要」と語るとおり、清潔なステンレスタンクが整然と立ち並ぶ。スパークリングワイン用のシャルマタンクを含め、合計45基、約15万本を生産可能な規模だ。タンクだけでなく配管やタンク上のキャットウォーク、ボトリングマシンまで全てが最新でピカピカだ。ヨーロッパの先進的なワイン造りを、人材から設備まで一貫して再現している。
「どのステップについても温度管理の徹底が大事」
ワイナリーの温度管理は厳重で、最新鋭のタンクの使用にとどまらず、空調設備が充実し、ワイナリー内を14℃ほどに保っている。また、熟成庫は水温冷式の温度管理となっており、壁面に張られたパイプの中を水が巡る。その温度を調節することによって庫内の気温を保つのだ。湿度の変化や空気の動きに作用しない、熟成環境に理想的な設備だろう。
最高の畑と最高の醸造設備と最高の技術者を兼ね備えるキャメルルファームワイナリー。小規模ワイナリーとは別のステージで、余市から世界へ、ワインを発信する主人公になることは間違いない。
「毎日違うことにチャレンジしていくこと」
「毎日生きることを当たり前のことと考えないで、全力で生きること」醸造責任者のアンジェロさんと、ワイナリー長の伊藤さんは、共通のモチベーションを口にする。葡萄栽培北限の余市という土地での彼らの挑戦が世界に広く認められる未来はそう遠くもないのかもしれない。
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