「私たちは特別な事は何もしていないよ。ひたすら畑で作業をするだけだ。あとはベストなタイミングでベストな決定を下す事が重要だ。」アレック・セイス氏
2024.06.20 --- writer Kasahara
- web サイト
- http://www.dujac.com
1. モレ・サン・ドニ村の概要
モレ・サン・ドニ村は全部で約135ヘクタールの畑があり、そのうち白ワインの畑は4%弱しかなく、輩出されるワインのほとんどは赤ワインという事になる。
コート・ド・ニュイには日本のワイン愛好家にも人気のある、ヴォーヌ・ロマネやシャンボール・ミュジニーそしてジュヴレ・シャンベルタンと人気且つ有名なアペラシオンが名を連ねているが、その中では特段人気が高いとは言い難い。ただしこの村の畑を見てみると、意外な事実が分かる。
グラン・クリュとプルミエ・クリュの畑は全体の約60%にあたり、この数字自体はヴォーヌ・ロマネを凌ぐ。グラン・クリュは全部で5つあり、これだけで約40ヘクタールもある。
この村のワインの味わいの特徴は、一般的にスパイシーな香りとしっかりとした骨格と果実味を持ったワインになる。 先ほどはイマイチ人気が無いと触れましたが、(この村の)イメージとは異なり、日本でも人気のある生産者が多く本拠地としている村で、ペロ・ミノ、ポンソ、ロベール・グロフィエ…、と枚挙にいとまがない。中でもドメーヌ・デュジャックは間違いなく同村の中の生産者でもピカイチの人気生産者。ではコート・ド・ボーヌにも畑を所有しており、赤・白ともにその品質と実力を広く認められている。
2. ワイナリーの歴史
先代ジャック・セイスは、家族経営のビスケット製造会社で数年働いた後、1968年、モレ・サン・ドニのドメーヌ・グライエを購入し、ドメーヌ・デュジャックと改名した(ジャックが所有するエステートを意味する彼のファーストネームのダジャレだそう)。
2005年にはヴォルネイのドメーヌ・ド・モンティーユと共同でドメーヌ・トマ・モワイヤールを買収。これにより、所有するグラン・クリュは全部で7つと増えて、コート・ド・ニュイのモレ・サン・ドニ以外の村の畑も取得し、この時点で15.5ヘクタールを所有。
セイスの息子で長男のジェレミーが1998年からドメーヌの運営に加わる。そのすぐ後となる2000年から父ジャック・セイスのサポートの元、ネゴシアンビジネスを開始。「デュジャック・フィス・エ・ペール」がリリースされる事となる。
その後2001年にはジェレミーの妻、ダイアナが、2003年には今回ドメーヌを案内してくれたアレック・セイスが参画。ドメーヌはコート・ド・ニュイとコート・ド・ボーヌの両方でワインを生産している。
3. 畑の特徴
ジャック・セイス氏がドメーヌ・グライエを取得した際には、僅か約5ヘクタール程の畑でしたが、段階的に畑を取得し、エシェゾーやボンヌ・マール、クロ・ド・ラ・ロッシュを加えた。そして2005年にはトマ・モワイヤールからシャンベルタン、ロマネ・サン・ヴィヴァン、ボンヌ・マールそしてヴォーヌ・ロマネ・プルミエ・クリュ・マルコンソールを取得。
これにより所有するグラン・クリュは7つとなり、全部で約5.5ヘクタールに。(この時点でドメーヌ全体約15ヘクタールを所有)。直近では2014年にピュリニー・モンラッシェの畑(プルミエ・クリュのフォラティエールとコンベット)を取得。
モレ・サン・ドニの生産者としては珍しい、モレ・サン・ドニ・ブランもリリースをしている為、白はコート・ド・ニュイとコート・ド・ドールの両方で白ワインをリリースしている。生産量は赤が全体の85%、白が15%程度との事。
ドメーヌは20年以上前からビオロジックを導入し、2011年には有機認証を取得。 2003年にはビオディナミ農法も導入し、現在ではドメーヌ全体で実践している。ビオへの転換について、アレック氏は
ビオへの切替は短期的にワインの品質を向上させるという目標の為ではありません。農薬を使用していても良いワインを造る生産者は沢山います。私たちが(ビオへ)切替した理由は、もっと長期的に考えた時にワインの品質を上げる為です。
とコメントしている。
4. 醸造の特徴
「1968年~2018年の間、お父さん(ジャック・セイス氏)の時代はほぼ全房発酵でした」 とアレック氏。理由は除梗をすると、毎晩除梗機を洗わなければいけなかったから、と冗談っぽく話す。確かにジャック・セイス氏時代のドメーヌ・デュジャックを象徴するスタイルは「全房発酵」と「高い新樽比率」だろう。
「自分達は全房発酵が主なので、選果台でまた手に色々触れないで、なるべく収穫後はそのままドメーヌに搬入したい」と考えている為、行われるブドウの2回の選果は全て畑の中で行う。
1回目は収穫人が畑の中で、(ブドウを)摘みながら収穫人がチェックして、2回目はトラックに載せる際に栽培長が再度(ブドウの状態を)チェックする。今は全てを全房発酵しておらず、除梗を5~10%で、残りを全房発酵する。何故除梗を少しするようになったかと、言うと発酵段階で全てが全房発酵だと、ブドウの実が一部十分に潰れない為、果汁が十分に取れないらしい。除梗したものを一緒にすると重みで自然と実が潰されて果汁が出るようになったとか。
自分達が求めている理想のワインは、タンニンが柔らかくてシルキーで尚且つ複雑味があるもの
その形を求め始めて、近年では新樽比率を徐々に下げている。
5. 解き明かせ、オー・コンボットの謎!
さて、2022年のテイスティングがスタート。「2022年は非常に素晴らしい年になりまりました。暑かったのですが、清涼感を保てた良いヴィンテージで赤・白ともに良い出来のワインとなりました。」と試飲前にアレック氏が前説、これは嫌でも期待値が上がる…。
ピュリニー・モンラッシェ プルミエ・クリュ
「最初はピュリニー・モンラッシェのプルミエ・クリュ、フォラティエールです。2022年を試飲してもらいます。未だ若木で、2010~2015年にかけて植えた区画です。樹齢がもっと高くなれば、より複雑味が出てくると思いますが、現時点でも品質には満足しています。」2014年に取得したばかりのアペラシオンですが、非常に良くまとまっている!ミネラル感もあり、とても美味しい。現在ドメーヌ・デュジャックの白ワインはモレ・サン・ドニのヴィラージュ、同じピュリニーのプルミエ・クリュのコンベットも所有しているとの事。
2022年と23年はともに暑い年ですが、全く異なる天候でした。22年はずっと暑かったですが、23年は暑い、寒いの繰り返した年でした。23年にバカンスに出た際に凄く寒かったので良く覚えています。
と笑って説明してくれた。
モレ・サン・ドニ
次はモレ・サン・ドニの赤。「白と同じように清涼感のあるワインです。2022年の偉大なのは、タンニンの質が素晴らしい所です。タンニンの質が丸くて、細かくて、野暮ったくないシルキーなタンニンです。飲みやすさもありますが、ブドウの熟度も複雑味もあります。」モレらしいスパイシーな香りを纏いつつも、本当にタンニンがシルキーで、ミネラルを感じられる、これまた素晴らしい出来。
ジュヴレ・シャンベルタン プルミエ・クリュ
次はジュヴレのプルミエ・クリュのコンボット。「(この畑の)周りはグラン・クリュに囲まれた素晴らしい畑です。(ほぼグラン・クリュの畑です!)余韻が非常に長く、複雑味もあります。スパイシーな要素がモレ・サン・ドニらしさを感じる余韻。骨格(ストラクチャー)はジュヴレ・シャンベルタンっぽい鉄っぽさがあります。なんでここだけがグラン・クリュでないのか、という点ですが、そもそもこの畑の由来はコーム、背斜谷(渓谷)から来ていて、(土壌が異なると)小さい頃から聞いていました。ディジョン大学の地質学者の方(コンベットの地質を調べている方)に話を伺う機会があったので、聞いてみたら土壌はクロ・ド・ラ・ロッシュと同じ土壌だった」との事。ここから続く話がいかにもフランスらしい展開を見せる。
地質からするとグラン・クリュと変わらないのに、なぜ、という点については、格付けする際にジュヴレ・シャンベルタンにはグラン・クリュが既に沢山あるから、もう要らないだろうという話になったらしい。まぁ確かに味わい的には(個人的に)ギリギリ、グラン・クリュかな、と思うからそれならプルミエ・クリュのままが良いかなと思います。
と。はい、何はともあれ、確かにこの後試飲したクロ・ド・ラ・ロッシュに似た構成力のあるワインでした!
クロ・ド・ラ・ロッシュ
次はクロ・ド・ラ・ロッシュ。「畑が(コンベットの)隣なので比較試飲してみて下さい。まぁクロ・ド・ラ・ロッシュの畑も大きいから、畑の区画によっても違うよね。ただ鉄っぽい骨格は共通点であるかもしれません。まぁ比較してしまうと、クロ・ド・ラ・ロッシュは王様に違いないですが。」グラン・クリュの試飲が始まっても未だに変わらずシルキーなタンニンに驚いてそれを告げると、アレック氏からも
そう、だから2022年は大好きなんだよ。シルキーなタンニンだし、ブドウがしっかり熟している感じがワインにあるよね。飲み易くて丸いタンニンです。
とコメントを頂く。「昔のブルゴーニュは力強いタンニンを抽出しようという考え方だったのですが、最近(ここ20年位)は地球温暖化の影響で、どこで抽出を止めるのかが重要なポイントです。」と話が続いた。なるほど、地球温暖化の影響に合わせて、当然醸造方法も変化してきているのは当然か。
クロ・サン・ドニ
続けてクロ・サン・ドニ
「余韻が長くてキメが細かい感じ、エレガントで上品なワインです。クロ・ド・ラ・ロッシュは比較すると、もう少し力強くて横幅のある味わいです。この2つの畑は土壌の構成は同じなのですが、コーム、背斜谷からの影響が(それぞれの)畑の向きによって違いが生まれます。」
ヴォーヌ・ロマネ
最後にヴォーヌ・ロマネのマルコンソールです。
「何故マルコンソールが最後なのかというと、品質的な問題ではなくて、先に出した3つが地理的に近いので比較の為先に出しているだけです。このワインはヴォーヌ・ロマネらしい、タンニンが細かくて非常に繊細、余韻も長いです。またマルコンソールの特徴で今までのワインと比較すると果実味が全面に出てこない、という事も言えます」
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2022年のヴィンテージの日本へのシップメントは約3週間後に行う予定だとか。そうなると日本に到着して市場に流通するのは今年の冬頃になるでしょうか、2カ月間の航海を経たドメーヌ・デュジャックの2022年のヴィンテージが今から楽しみ!
参考情報:
生産者 - ドメーヌ・デュジャック:
Domaine Dujac
輸入元 - ラック・コーポレーション:ラック・コーポレーション|デュジャック (luc-corp.co.jp)
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