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Thibault Liger-Belair

Thibault Liger-Belair

ティボー・リジェ・ベレール
ティボー・リジェ・ベレール

ティボー・リジェ・ベレール - 茶目っ気たっぷりの哲学者的思考の生産者

2025.01.06
コート・ド・ニュイ

茶目っ気たっぷりの哲学者的思考の生産者

2024.06.21 --- writer Kasahara

web サイト
https://m.thibaultligerbelair.com/28PSHZSBKB/

1. ニュイ・サン・ジョルジュ村の概要

ニュイ・サン・ジョルジュ村

恐らく村の規模(人口)からいうとコート・ド・ニュイで一番大きいのではないだろうか。さてそのニュイ・サン・ジョルジュ村の畑は、他のニュイのアペラシオン同様、赤の畑がほとんどだ。全体では約310ヘクタールあるが、そのうち約97%にあたる約300ヘクタールが赤ワインの畑だ。ほぼ毎年話題になっているグラン・クリュへの昇格についての話題に付随する話だが、現状はグラン・クリュが無いアペラシオンとなっている。ただしプルミエ・クリュの数は約40近くあり、これはどこよりも多い。
ヴォーヌ・ロマネに接する北側と中央に村があり、南側に広がるのがプレモー・プリセ地区と、南北に長い。その為ワインの味わいについてもニュイ・サン・ジョルジュの南側なのか、北側なのか、で特徴が変わるので、ワインの味わいを話す際には畑の区画がどこなのか、という所からスタートするのが通例だ。
一般的なイメージで言うと堅牢なタンニンと黒系の果実味、重厚な味わいで、これまた好き嫌いの分かれるエリアでもある。

コート・ド・ニュイ ▲ オフィスのティボーさん自室の扉に飾ってあった似顔絵、本人の特徴をよく捉えた絵! 案内人:ティボー・リジェ・ベレール氏

2. ワイナリーの歴史

リジェ・ベレール家のブルゴーニュ

「リジェ・ベレール家のブルゴーニュでの歴史は1720年まで遡ります。当時はネゴシアン業をしていました。」
と話し始めるティボー・リジェ・ベレール氏。正直このドメーヌの歴史がそんなに長いとは思ってもいなかった。HPにも「1720年にニュイ・サン・ジョルジュでC.マレイ社とリジェ・ベレール伯爵家が設立され、1923年にリヨン証券取引所に上場した。両社はブルゴーニュで最も重要なワイン生産・貿易会社のひとつであった。」とある。現在のドメーヌの名称となっている、リジェ・ベレールの名前がワイナリーの歴史に登場したのは、1852年ルイ・リジェ・ベレール氏が相続した時だ。ちなみにヴォーヌ・ロマネのグラン・クリュ「ラ・ロマネ」は同氏の所有。現在同畑を所有している「コント・リジェ・ベレール」のルイ・ミッシェル・ベレール氏は親戚にあたる。さて現ドメーヌの当主ティボー・リジェ・ベレール氏の話に戻ろう。本人はパリ育ちと実は?都会っ子だったが、休暇等の際に、ブルゴーニュには子供の頃から遊びに来ていたそうだ。そして14歳の時にワインの仕事に就く事を志し、16歳の時には父親にボーヌのワイン学校で学びたいと相談。そこからティボー・リジェ・ベレール氏のワイン・キャリアがスタートした。
「2001年に実家の全ての畑を引き継いでドメーヌをスタートしたのです。当時全ての畑はブルゴーニュに特有の分益耕作(メタヤージュ)です。土地のオーナーと畑のグローワーでその畑で出来たブドウを50:50でシェアする仕組みです。」
さてこうしてドメーヌが再スタートしたわけだが、畑にはやるべき事が沢山あったようだ。
「私にとってワインを造る事、つまり農業に従事する事は全て頭の中にあって、実在物を理解する事から始まります。」
▲ 静かな語り口で諭すように語る、ティボー・リジェ・ベレール氏はまるで哲学者のよう
▲ ワイナリーの入り口箇所、ガラス張りのモダンな建築

3. 畑の特徴

ビオディナミ

2001年にドメーヌをスタートした際に、メタヤージュで管理されていた畑を見たら愕然としたそうだ。

「実際畑に行ってみると、非常に悪い状態でした。土の色はグレーで硬くなった状態です。その年から全ての畑で有機栽培に転換する事を決めました。その数年後ビオディナミについてもどのようなものなのかを勉強し始めて、2004年に導入しました。2007年には認証も取得しています。」
しかしこの後、謎かけのような話を続ける。
「多くの人々が私はビオディナミ農法をしていると思っていますが、それはある意味事実ですし、ある意味事実ではありません。」
実は、ビオディナミ農法自体は2012年を最後に全ての畑で止めているのである。
「ビオディナミの一部プレパレーションの散布はしていますが、あくまでビオディナミの哲学を独断的に実行するわけではありません。なぜ私がビオディナミを止める事にしたのかは、この独断的な考え方が理由です。私にとってワインを造る事、つまり農業に従事する事は全て頭の中にあって、実在物を理解する事から始まります。だから私はもっと思考・思索する事を始めました。それぞれのプロセスについてもっと理解しようと努力をしています。」
あくまで、ビオディナミ農法という決まったプロトコルを実践するのではなく、ワイン造りについての全てのプロセスに於いて独自に思考し、それについてより良い方法を試してみる。彼の謎かけのような説明は、つまりビオディナミ農法を否定するものではないが、自分自身で植物の生育サイクルや環境を再解釈し、その中で有効な手段を実行しているという事だろう。その中にはビオディナミ農法のプレパラシオンという手段を取る事もあるし、必ずしもそうではない、という様に。
▲ 畑にカモミールを散布している。「ブドウの木をリラックスさせる為だ」と話す、ティボー・リジェ・ベレール氏

プロセスについてもっと理解しようと努力している、と語っていた事を補足するかのように話す。2001年当時、土の状態を見て有機栽培に転換したのも、ブドウ栽培はまず、土からという考えに基づいたものだろう。そしてその次にブドウの木、という様に。

「土とブドウの木はいつも相関関係にあります。まずは土について考えました。ここ40年で木に必要なものと土の中を統合しようと試みました。土壌を一種の工場のように考えるようになったのです。土壌を一種の工場のように考え、そこに植物が必要とするものをすべて入れるのです。土壌を工場のように考えず、ただ大きな殻のようなものとして考え、そこに木に必要なものをすべて入れる、例えば、窒素やカリウム、リン酸を増やせばいいとは考えない。つまり、土に入れて材料を育て、土に栄養を与えるだけで、あとは土が勝手に働いてブドウの木に必要なものを作り始める。しかし、その第一歩は土壌なのです。その次はブドウの木のことを考えなければならないと思いました。そして最近、特にいろいろな種類の植物を使うときに、ブドウの木のことを考えるようになった。私がさまざまな種類の植物、物、(微生物による)分解を使うのは、ブドウの木が土を作り、土がブドウの木を作ると思うから、これが理由です。つまり、全てが関係していると思う。」

4. 醸造の特徴

「ここがワイナリーです、特別なものは何もないですね。しいて言えば発酵用のステンレススティールタンクでしょうか。」

「この記号を見た事がありますが?黄金比を示します、これら全てのタンクは黄金比になるように設計されています。これらのタンクは2023年から使用していますが、発酵中に自然な対流が起こるように設計されています。」
タンクの底部分が特殊で楕円になっていて、これにより自然な対流が発生するような設計になっている。もちろんこの仕様はこのワイナリー独自のもので、このタンクは特注で作ってもらったという拘りぶり。
「自然界に角(角度)は存在しないからね。底部分は卵の底の形と同じです。外装は角ばっていますが、これらのタンクの内部は全て楕円状になっていて角はありません。このタンクには2,500リットル入ります。この形状のタンクは全て私が考案しました、というかワイナリー内にあるものは全てそうです。」
▲ 何度か試作を繰り返し、改良を加えて現在の形になったそうだ
▲ 少し分かりづらいが、タンクの底箇所が楕円状になっているのが見える

5. 2023年ヴィンテージのバレル・テイスティング

ニュイ・サン・ジョルジュ

「ニュイ・サン・ジョルジュから、2種です。1つは村の北側、もう1つは南側の畑です。1つ目はラ・シャルモットで、ニュイ・サン・ジョルジュの北側、ヴォーヌ・ロマネ側の畑です。私の畑の区画は丁度この(シャルモットの区画の)角地にあって、1級畑の直ぐ隣にあたります。この地域は40-50cm厚さの鉄分豊富な粘土層があり、その下に石があります。これは母岩ではなく、氷河が谷を削って体積されたものです。この丘の間にある狭い谷を通ってヴェンチュリーエフェクト(狭い谷間を風が抜ける事により強い風になる)に似たようなものを生み出します。その結果この地域はよく風の通る場所です。霜とかの影響も減りますね。」
味わいはニュイ・サン・ジョルジュらしい、タンニンを感じながらも全体としてはエレガント、余韻もフレッシュな果実味が感じられる。

ニュイ・サン・ジョルジュ・ベル・クロワ

「もう1つはベル・クロワです、ここは2万2千年前に氷河が溶けた際に、たくさんの粘土が体積した場所で、非常に表土が深いです。6~7メートル位あります。ここには石灰石はありません。柔らかいタンニンが特徴ですね。まったく土壌が異なる2つの畑です。」
このニュイ・サン・ジョルジュ・ベル・クロワは、ティボー・リジェ・ベレール・サクセッサーというネゴシアン(買いブドウ)ワイン。ただし、一般的なネゴスとは異なり、畑から自分達で管理しているとの事。
▲ ニュイ・サン・ジョルジュの地図を使いながら説明を受ける

ジュヴレ・シャンベルタン、ラ・クロワ・デ・シャン

「次はジュヴレ・シャンベルタン、ラ・クロワ・デ・シャンを試飲しましょう。このブドウは収穫後に2つの選果チームに分かれて選果を行います。1つのチームはまず一番熟したブドウのみを選別します。このブドウを全て全房発酵させます。もう1つのチームは3回のブドウの選果を経て、こちらは全て除梗します。約60%が全房です。このラ・クロワ・デ・シャンという区画は表土が非常に厚く、全房発酵をさせないと、タンニンが強くなり過ぎて粗野な感じの味わいになってしまうのです。その為この果実味の強さを少し取って、よりフレッシュな味わいを(全房発酵をする事によって)出すようにしています。」

6. 2022年ヴィンテージのボトル・サンプル テイスティング

シャンボール・ミュジニーVV

「この次はシャンボール・ミュジニーVVを試飲しましょう。これは5つの異なる区画のブレンドから造られます。」
ちなみにこちらもティボー・リジェ・ベレール・サクセッサー(ネゴシアン)のもの。樹齢はどの区画も50年を超えているそうで、シャンボール・ミュジニーらしいチャーミングな果実味の中にもミネラル感が同居している。

ヴォーヌ・ロマネ・オー・レア

「次はヴォーヌ・ロマネ・オー・レアを試飲しましょう。村の南側に位置する畑です。レアとは石灰石を意味します。この石化石はヴォーヌ・ロマネ村の背斜谷から運ばれてきたものです。南側の斜面の畑なので色合いは濃いですが、味わいは非常にエレガントでフレッシュです。全房発酵の比率も10-15%程度しかありません。それ以上にするとワインに青さが出てしまうからです。」

シャルム・シャンベルタン

「次はグラン・クリュです、シャルム・シャンベルタン。これはオー・シャルムというリュー・ディで、シャルム・シャンベルタンの上部にある区画です。グラン・クリュ街道を挟んで向かい側にはラトリシエールとシャンベルタンがあり、真正面にその境目があります。モレ・サン・ドゥニからジュヴレ村に向かってグラン・クリュ街道を走った時にシャルム・シャンベルタンのサインが見えますが、これを見たらすぐ右側に見えるのが私の持っている畑です。樹齢は1952年と非常に古く魅力的な区画です。シャルム・シャンベルタンは一般的にヴォリュームがあり、タンニンの強いワインになりがちなので、80%を全房発酵しており、かつ唯一100%新樽を使用しています。全房と言っても全てを(発酵時に)使うわけではありません。茎をハサミで減らして、青っぽい要素が強く出過ぎないようしています。非常に大変な作業ですが、その結果ワインがフレッシュな味わいになるので、興味深いです。」
シャルムらしい力強いタンニンもありながらも特に余韻がフレッシュで、スパイシーな味わいになっている。もちろん全房に起因するような嫌な青っぽさは全くない。

クロ・ヴージョ

「クロ・ヴージョです。このワインは南側に位置する区画です。クロ・ヴージョは非常に面白い畑です、何せ約50ヘクタールの畑に82のオーナーが存在するのですから。自分の区画の西側には最も古いブドウの木があって、1944年です。あと40%がそれよりも若い木で1994年に植えられたものですね。44年の区画は全房で、94年の区画は全て除梗します。その結果ヴォリュームのあるタンニンがありながらも、フレッシュで粗野な感じはないですよね。」
さてクロ・ヴージョは所有する自社畑のグラン・クリュの2つのうちの1つ。(もう一つはこの後試飲するリシュブール)良年だった2022年らしく、丸くきめ細かなタンニンがあり、ヴォリュームもたっぷり。シャルム同様に長い熟成を期待したいワインだ。

レ・サン・ジョルジュ

「次はレ・サン・ジョルジュを試飲しましょう。これはドメーヌのフラッグシップワインでもあります。幸運な事に現在で2ヘクタールを持っていています。背斜谷の影響を強く受けており、多くの石灰石が見られます。2022年は40%を全房発酵にしました。なぜこのワインをクロ・ヴージョの後に、そしてリシュブールの前に試飲するのかを理解できると思います。このワインは口の中に直ぐに伝わってくるものではないのです。口の中にワインを暫くとどめておくと第2の味わいが広がってくるはずです。これはリシュブールでも同じような事が言えるでしょう。ワインから近寄ってきてくれるのではなくて、私たちがワインに向かっていかないといけません。」
直感的に楽しめるワインと、思考が必要なワイン、少し表現の仕方が違うが、ルフレーヴでも同じ話が出た。レ・サン・ジョルジュと聞くと凄いタンニン量なのだろう、と身構えてみたが、確かに硬質だが、意外にも舌上を圧倒するような強いタンニンではない。一方で溢れる程のミネラル感がある。

リシュブール

「では最後にリシュブールをテイスティングしましょう。この畑の区画はドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティの隣です。約20メートルの距離の近さですね。1931年~34年に植えられたヴォーヌ・ロマネ村にある最も古い区画です。全区画の70%がこの樹齢で、残りの30%については2年ごとに畑でダメになった木を引き抜き、植え替えをしています。」
数量はわずかに2千本程度しかない、自社畑のグラン・クリュだ。香りはカカオやチョコレート、そして少しスパイシーな香りがあり、なめらかなタンニンに果実味のバランス。そして長い余韻。これもワインを口に含むと、味わいの表情がゆっくりと変化していく。
▲ 柱の上にクロ・ヴージョの畑の地図を書きながら、自社畑の区画の説明を始める

この後のスケジュールの関係で、帰りは急ぎ足でドメーヌを後にする事となったが、ティボーさんは他のゲストもいらっしゃる中、ドメーヌの外まで見送りに来てくれました。気遣いも素敵でしたが、時折フレンチ・ジョークを挟み茶目っ気たっぷりでもある方。日本にお越しの際はTHE CELLAR Toranomonにも遊びにきてくださいね!

参考情報:
生産者 - ドメーヌ・ティボー・リジェ・ベレール:Thibault Liger-Belair, Propriétaire à Nuits-Saint-Georges, Côt
輸入元 - ジェロボーム:Thibault Liger-Belair_ (jeroboam.co.jp)

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