良質な畑と革新的な醸造所から高品質ワインを産み出す老舗のドメーヌ
2024.01.30 --- writer Yamamoto
1. クローズ・エルミタージュの特徴
ローヌ地方北部に位置するクローズ・エルミタージュ。北ローヌ地方は穏やかな大陸性気候で、冬は寒く夏は暖かい。エルミタージュの丘を囲むように広がるクローズ・エルミタージュは、南北合わせたコート・デュ・ローヌ地方全体でシャトーヌフ・デュ・パプに次ぐ2番目の広さで、北ローヌでは最大の面積を誇る。
1937年にAOC認定を受けたのは、クローズ・エルミタージュの北部地区で比較的急な斜面に広がる畑だ。その後、1956年に南方のより平坦な畑もAOC認定を受けることになり、現在の広大なAOCに広がっている。
2. ドメーヌの歴史
今回お邪魔したローラン・ファヨールの歴史は長く、1870年まで遡る老舗のドメーヌだ。
1959年に4代目が当時として先鋭的なドメーヌ元詰めを開始したかと思えば、5代目の時代には機械化が困難な畑を敢えて拡大することで、品質重視の姿勢を明確に。良質なテロワールを維持し、伝統を重んじる姿勢を残しつつ、常に革新へのチャレンジを恐れない精神を持ち合わせているドメーヌと言えるだろう。
現在、ドメーヌの舵を取るのは6代目の姉セリーヌ女史と弟ローラン氏。国家醸造資格を有するローラン氏がブドウ栽培&ワイン醸造を担当し、セリーヌ女史が営業担当を務めており、生産からマーケティングまでを一貫して行う体制を整えている。今回訪問時は主に、ローラン氏に話を伺った。
3. 畑の特徴
畑の大部分が北部エリアに集中する優位性
畑は、AOCクローズ・エルミタージュの他、AOCエルミタージュとAOCサン・ペレイの3つのAOCに広がるが、ローラン氏が協調したのは、ローラン・ファヨールのAOCクローズ・エルミタージュ畑の大部分は伝統的な北部エリアに集中しているという優位性だ。
前段の通り、AOCクローズ・エルミタージュの中でも北部と南部では環境が大きく異なる。北部は、比較的急斜面にあり、花崗岩質中心に、一部石灰質や黄土質といった複雑で個性に富む土壌が広がる。そこで育つブドウで造られるワインには果実味に凝縮感があり、酸味や深みを感じるタイトな仕上がりで、熟成可能なものが生まれる。ローラン氏が「どちらかというと、ブルゴーニュの赤に近いスタイル」と評する仕上がりだ。
一方元々果樹園だった南部は、平坦で粘土質土壌の肥沃な大地であり、北部に比べると果実の凝縮感が弱く、酸味も控えめな早飲みタイプのワインが主流となっている。
後からAOC認定を受けた南部についてどう思っているのだろうか?北部を中心に畑を持っているローラン氏にとっては喜ばしくないのではないかと思ったが、「南部がAOCに加わったことで、世界的な認知度が上がったことは喜ばしい」、と意外な言葉が返ってきた。また、「南部は特にマイクロ・クライメイトなので、区画毎に環境を判断することも重要」だとも。
品質に拘るからこそ、作業は大変
代々引き継がれてきた畑は確かに最高の立地にある。そのテロワールを最大限に活かすべく、ブドウの品質にも拘っている。それ故、苦労もあるのは事実だ。
南部は平坦で広大な畑なので、機械化が可能だが、ローラン・ファヨールの畑は斜面に広がるので、機械化は困難。そのため、斜面での作業は全て手作業で耕作には馬を使うそう。近代化よりもテロワール重視、品質重視という訳だ。
また、健全な土壌環境や生物多様性を重視する考えから、化学的なアプローチを避け、限りなく有機栽培に近いリュット・レゾネを行っている。
気候変動についてはどう感じる?
北ローヌ地方はローヌ渓谷が狭く、アルプスから届く冷たい北風「ミストラル」が強く吹く。ただ、ローヌ川沿いにある畑の向きは様々で、向きによってはミストラルの影響が少ない地域もある。例えば、ローラン・ファヨールのAOCエルミタージュの畑は南向きの斜面でミストラルの影響を受けることはない。一方、AOCクローズ・エルミタージュの北部にある畑は影響を受けやすい。
気候変動でミストラルが以前に比べて強くなってきているという話も聞くが、ローラン氏は「温暖化で気温が上がる中、風による冷却効果が期待できる」と、ミストラルについてもポジティブに捉えているのが印象的だ。
気候変動で辛いのは、暖冬の影響でブドウの芽吹きが早くなり、遅霜の影響を受けることが増えたことだ。2021年は霜の影響が強かった。因みに2017年~2020年は気温が高く、ワインのアルコール度数も上がった。冷涼な2021年を挟み、2022年&2023年は温暖な年となったが、以前よりはアルコール度数の上昇はなかったとのこと。ワインの味わい上、バランスが崩れることがなかったのは良かったが、今後、ワインがどのような変化を遂げるのか注視しているそうだ。
4. 醸造の特徴
2014年に醸造設備を一新したローラン・ファヨール。ブドウは全て手摘み収穫するなど、伝統的で手間暇を厭わない姿勢を見せる一方、品質向上のための技術革新へも果敢に挑戦している。
グラヴィティ・フローを用いる
2014年にセラーを一新し大きく変わったことの一つが、グラヴィティ・フローが可能になったこと。ポンプを用いるのではなく、重力(グラヴィティ)を使って、高い場所から低い場所に手摘みで収穫されたブドウ果や果汁を移動させることが可能になり、より優しく果汁を扱うことが可能になった。
気候変動の影響を醸造スタイルでカバー
温暖化の影響もあり、果実の糖度が上がりやすくなってきたのは事実。100%樽発酵・熟成させるとワインの印象が重たすぎるため、ステンレスタンクの他、コンクリート、アンフォラ、ガラスといった他の容器も活用し、フレッシュに仕上げたワインをブレンドして、最終的なワインに仕上げている。年によって異なるが、樽使用は20%程度とのこと。
夫々の容器の特徴についても聞いてみた。まず、ステンレスタンクやガラスは気密性が非常に高い。その次に気密性が高いのがコンクリートで、アンフォラはこの中では気密性が低い。もちろん、コンクリートやアンフォラも木樽に比べれば気密性が高く、木樽由来の香りも付かないので、酸化の影響が少ないよりフレッシュな仕上がりになる。
もう一つ驚いたのが、金属製品かどうかという点。金属製の場合、電子が移動しやすく、酸化(熟成)の進みが早いとのこと。電子の移動が起こりにくいガラスやコンクリート、アンフォラに比べ、ステンレスタンクは金属製なので、電子が移動しやすい状況にあるが、ローラン・ファヨールではアース線を引いて電気を放電させる徹底ぶり!とことんフレッシュさを確保している訳だ。
環境の負荷が少ない栽培方法を採用しているが、気候変動の影響でブドウは変わりつつある。それを踏まえた上で、醸造でカバーする。伝統だけではなく常に革新を追求する姿勢が見て取れる。
5. ワイナリーだからこそできる、贅沢な労働飯!
今回訪問時にランチをご馳走になった。そこでふるまわれたのが、収穫したブドウの絞りかすを使って調理されたソーセージとジャガイモ!ブドウの搾りかすは発酵が進んでいて、中はホカホカ。その中にソーセージやジャガイモを投入して長時間その熱を利用して調理したものだ。
ほんのりとブドウの香りが漂うのと酸味を感じる仕上がりでとっても美味しい!どうやら、収穫期の定番ランチメニューらしい。これはなかなか他では味わえない、収穫期のみのワイナリーの労働飯であり、ご馳走なのだ。
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