
1. シャトー・ラトゥールの概要
メドック地区ポイヤック村にあり、パリ万博の際に作成された1855年メドック格付けの第1級シャトー。1993年からグッチやサンローランなどの高級ブランドを傘下に持つケリング・グループの会長フランソワ・ピノ―氏によって買収。
1995年にLintas、Mars&Co等の経営コンサルタント会社に勤務していたフレデリック・アンジェラ氏を招聘。その後、彼は1998年にシャトー・ラトゥールの支配人に就任。
1999年から2003年にかけて、シャトーの全体の施設をフルリノベーションする。
2012年には、その年(2011年ヴィンテージ)を最後にボルドーの商習慣であるプリムール・システムからの脱却を表明。以後はシャトーが飲み頃と判断した時期に販売を行うようになった。
現在シャトー・ラトゥールが生産するワインは以下の3つがある
・シャトー・ラトゥール
・レ・フォール・ド・ラトゥール
・ポイヤック(1989年より、元々はレストラン向けワインとして生産)
2. ワイナリーの歴史
シャトー・ラトゥールの名前が歴史に登場したのは1331年。シャトーの名前の由来となっている「ラ・トゥール(塔)」は、もともとポイヤック村とサン・ジュリアン村の中間に位置するサン・ランベール地区を防衛する為の要塞の役割を果たしていた。
その後16世紀頃までは複数の領主がシャトーを所有して、畑を小作人に貸し出して賃借料を徴収。この当時は未だシャトーにもワインを貯蔵する設備もなく、造ったワインはその年に消費する、とういう環境だった。その後、17世紀末頃まではミュレ家がオーナーとなり、その時代から徐々に畑の賃借を止めて、直接畑の管理をするようになる。大きな転換点となったのは、18世紀に入りアレキサンドル・ド・セギュール侯爵がオーナーになった時代。
同氏はメドック地区のシャトー買収を進め、シャトー・ラトゥールは新しいワイン造りの時代を迎える事となった。1715年にはシャトー・ラフィット・ロートシルトを買収。その後「ブドウ畑のプリンス」という名を皇帝ルイ15世から授けられた、息子のニコラ・アレキサンドル氏が、更にシャトー・ムートン・ロートシルト、シャトー・カロン・セギュールの買収を行い、更にこれを推し進める。この当時からシャトー・ラトゥールのワインは


樽での取引価格で、当時のボルドーの一般的な取引価格の4~5倍で取引されていた。その後、シャトー・ラトゥールの樽の取引価格は1729年には13倍に、1767年には一般価格の約20倍となり、その品質の高さと高い需要はグラン・ヴァンとして広く認められていた。需要の高まりを受けて畑を徐々に拡張し、1794年には47ヘクタールとなった。
シャトーは1962年までセギュール家の末裔が相続。その後イギリスの投資会社や酒類会社の所有を経て、1993年にフランソワ・ピノ―氏によって買収。1998年に支配人の名を受けたフレデリック・アンジェラ氏が中心となってシャトーの改革にあたり、現在に至る不動の名声を獲得した。2012年にはボルドーのプリムール・システムからの離脱、飲み頃になってからの販売を行うという決断をした為、ボトル熟成用のワインセラーを増築した。


3. 畑の特徴
現在シャトー・ラトゥールの畑面積は92.6ヘクタール。うち47ヘクタールは、シャトー本館を囲む「ランクロ」と呼ばれる区画で、グラン・ヴァン(シャトー・ラトゥール)の生産に使用。ランクロはジロンド河口を見下ろす海抜16メートルの小高い丘の上に広がる。「ランクロ」の区画は2008年から馬での耕作を始め、2009年からビオディナミ農法を実践している。樹齢は平均60年のヴィエ―ユ・ヴィーニュだ。



「ランクロ」の区画以外にも40ヘクタールあまりの畑を有し、段階的に購入をすすめた複数の優良区画(「プティ・バタイエ」、「ピナーダ」など)を含む。これらの区画から収穫される果実はレ・フォール・ド・ラトゥールのブレンドに、さらに樹齢の若いブドウ樹はポイヤック・ド・シャトー・ラトゥールの生産に使用。
シャトーの畑全体で2015年からビオロジックに転換を行い、2018年にはメドック格付け1級シャトーで初めて、エコセールの有機栽培認証を取得している。
畑は全体の約76%がカベルネ・ソーヴィニヨン、22%メルロ、残りの2%がカベルネ・フラン、プティ・ヴェルドだ。
4. 醸造の特徴
シャトー・ラトゥールでは、1960年代、ボルドーにおいていち早く醸造用ステンレスタンクを導入。2001年には醸造設備を全改修し、蔵には現在80を超える数のステンレスタンクが設置されている。区画ごとにブドウを醸造する為164ヘクトリットルから12ヘクトリットルまで、タンクのサイズは様々取り揃えている。
収穫後は除梗および破砕にかけられ、ステンレスタンクへと移して発酵。タンクは全て温度制御システムを備えており、パネルでもそれぞれのタンク状況が一目瞭然だ。




現在はプリムールでの販売を行っていない為、出荷時期はシャトー内でのテイスティングを経て、飲み頃だと判断された時に決めている。ちなみにこの仕組みとなった最初のヴィンテージである2012年は約8年間のシャトーでの熟成を経て、2020年5月にリリースされた。最近では2024年3月に2017年ヴィンテージのリリースを発表している。(同じ時期にレ・フォール・ド・ラトゥールの2018年もリリース)
5. 2017年シャトー・ラトゥールのテイスティング
かなり立派なシャトー内部の見学ツアーも終わり、テイスティング・ルームへ移動。これまた非常に瀟洒なデザインで、テイスティング・テーブルの前からシャトーの前に広がる畑も一望出来る。今回は2017年のシャトー・ラトゥール、2018年のレ・フォール・ド・ラトゥール、2019年のポイヤックを試飲。
ポイヤック 2019年
さて最初は2019年のポイヤックから。2019年はやはり暑い年だった事もあるのか、色調はかなり黒い紫色に近い。香りはブラックベリーやスパイスも感じられ、味わいは非常に滑らかなタンニンが舌の上に広がる。他のキュヴェと比較するとメルロの割合が半分程度を占めているとの事。


レ・フォール・ド・ラトゥール 2018年
ピニャダ、プティ・バタイユ、サン・アンヌといった区画を中心にブレンド、平均樹齢も40年近く有り、既にヴィエ―ユ・ヴィーニュだ。また2005年にアルティグというコミューンに取得した7ヘクタールの砂利質土壌の区画もブレンドしている。(2012年に更に追加で5ヘクタール取得)通常メルローのブレンド比率が20~30%程度。
こちらはグラスの縁の色が若干熟成を経ている様子で、香りもキノコっぽいニュアンスが出ている。未だ若々しいタンニンがありながらも、味わいはまとまっている。


シャトー・ラトゥール 2017年
既に2016年をリリースしていたが、2016年はもう少しシャトーで熟成をさせて、2017年を先にリリースをするという判断となったようで、2024年にリリース。使用する品種は90%以上カベルネ・ソーヴィニヨンだ。
香りはハーブやスパイス、リコリスのニュアンス、味わいはシルキーなタンニンとアフターにフレッシュさを感じる。所謂、2019年や2016年のような偉大な年ではなくクラシックな年という事になるのだろう。ただ複雑味はレ・フォール・ド・ラトゥールと比較したら、まったく別の次元のワインだ。
6. (おまけ)秘密の部屋には秘蔵の大容量ボトル!


シャトー内見学の際に見せてもらった、地下12メートルの位置にある瓶熟成庫の隣に、隠し扉が?!中には1500ml以上の大容量ボトルのみが置かれているエイジング・セラーが。流石のボルドー1級シャトーという感じで圧巻の見ごたえ。
参考情報:
生産者 - シャトー・ラトゥール:Château Latour | Premier Grand Cru Classé à Pauillac, Médoc
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