アルバのテロワールを知り尽くすファミリーだからこそ可能な最上のワイン。そして今はワインを越えてアルバ文化全体の継承者となりつつある…
2024.02.15 --- writer Yamamoto
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1. ピエモンテの特徴
イタリア北西部に位置するピエモンテ州にあるアルバ。白トリュフを始めとする美食の街として有名であると同時に、街の西側に「ワインの王」や「王のワイン」と称されるバローロが、東側には「ワインの女王」や「バローロの弟分」と称されるバルバレスコがあるなど、ワインの銘醸地として名を馳せる場所でもある。
ピエモンテ州は、「山の足(麓)」という意味の名が示す通り、北側と西側をアルプス山脈に、南東側をアペニン山脈に囲まれている。東側はパダーノ平野で開けているが、平地が少ない山岳地帯だ。尚、ワイン用のブドウは、主に丘陵地帯で栽培されている。北側にアルプス山脈があることで、冷たい北風から守られてはいるが、イタリアの中では涼しい地域で、夏は暑く冬は寒い大陸性気候。アルプス山脈はきれいな雪解け水をもたらし、イタリアの中では水に恵まれた産地でもある。
2. ワイナリーの歴史
今回お話を伺ったのは、チェレットの3世代目の一人であるフェデリコ氏。
ワイナリーの歴史は、フェデリコ氏の祖父にあたるリッカルド・チェレット氏がアルバ地区にワイン醸造所を創立した1939年に遡る。この当時は買いブドウでワインを製造していたが、転機となったのは、1960年代にリッカルド氏の息子であるブルーノ氏とマルチェロ氏が経営を引き継いでから。良いブドウが栽培できる畑を次々と購入し、畑近くに醸造所も建設、バローロ、バルバレスコの最高の造り手の一つという地位に引き上げた。
現在は3代目にあたる彼らの子供たち4人が指揮を執る。ワイン造りにおいては、持続可能性の観点からビオディナミ栽培への転換を実施。ワイン以外にも、食、芸術、建造物等、あらゆる「文化」を伝承する姿勢を前面に打ち出し、地元でのレストラン経営や、特産品であるヘーゼルナッツを使った製品造りの他、アート活動にも力を入れ、次世代に向けた発展・継承に余念がない。
3. 畑の特徴
先代から広げていった自社畑は現在、バローロに約20ha、バルバレスコに約10haを含め、計160haと広大だ。ここでは大きく3つの特徴を取り上げたい。
ビオディナミを導入
「ワインはブドウ畑で造られる」というコンセプトの下、醸造所でのテクニックではなく、畑の土壌の健全性や生物多様性を重視し、20年以上前から殺虫剤や化学肥料の使用をやめ、有機栽培を実践。そして、2010年からはビオディナミを導入。バローロ、バルバレスコの単一畑(クリュ)からスタートし、今では畑の大部分を転換済みだ。残りの畑も、有機栽培を実施しつつ、ビオディナミに転換すべく作業を続けている。
最良の畑を手に入れる
いいワインはいい畑からしか生まれない。この考えを元に、2世代目のブルーノ氏とマルチェロ氏は1960年代後半から70年代前半にかけてバルバレスコ村の丘の頂上にあるアジリ畑を購入。また、70年代後半から80年代前半にかけては、バローロのカスティリオーネ・ファレット村にあるブリッコ・ロッケに単一畑を購入。現在は、バローロの主要な5つの村すべてから6つのクリュ・バローロを、また、バルバレスコは3つの村から3つのクリュ・バルバレスコを製造している。
バローロ、バルバレスコの品種であるネッビオーロといえば、淡い色調に反するような、豊かな果実味と強い酸味とタンニンが特徴。また、栽培される環境を表現しやすい品種でもある。
フェデリコ氏は
ネッビオーロは山が好き。ピエモンテの山の気候だからこそ、リッチになりすぎずクリーンでピュアな仕上がりになる
と言う。果実は南向きの斜面に植えられ、昼夜の寒暖差もある環境で育つことでしっかりと完熟するのだ。
ネッビオーロだけではない!
ピエモンテと言えばバローロ、バルバレスコ=ネッビオーロと思われがちだが、それだけではない。モンソルド・ベルナルディーナ醸造所付近にある30haのブドウ畑には、多種多様なブドウが栽培されている。
例えば、ドルチェット。
ドルチェットはシンプルで若飲みスタイルと軽視される傾向にあるが、決してそんなことはない
とフェデリコ氏は熱弁する。
ワイナリー創設時、栽培品種の大半はドルチェットだったそう。約50年前に白ワインを造り始める前までは、ドルチェットで乾杯していたそうで、最高のスターターと太鼓判を押す。チェリーやプラムのようなフルーティーな香りとは裏腹に、この地域のワインらしく、しっかりとしたタンニンの骨格を感じ、食事との相性が良い。今でもチェレット家では、気軽に楽しむワインとして愛飲されているそうだ。
アルネイスも忘れてはいけない。チェレットの「アルネイス ブランジェ」は、イタリアの白ワインの歴史を変えたといわれるほどで、イタリアで最も売れている白ワインとも称されている。モンソルド・ベルナルディーナ醸造所を中心とした一帯の畑で栽培されている。砂地でその昔は桃やアプリコット等が栽培されていた場所だが、ミネラル感のある白ワイン製造に適していると分かり、現在はチェレットの後を追ってブドウ栽培する人が増えているそう。
イタリアの土着品種以外だけではない。DOCやDOCGが規定するブドウ品種や熟成期間から自由になり、表現するワインとして、「モンソルド ロッソ」というワインでは、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、シラーという国際品種が用いられている。3世代目の挑戦で、この地域でも高品質な国際品種が造られることを内外に示している。
スーパータスカンならぬ、スーパーランゲだ!
とフェデリコは鼻息荒く語ってくれた。
4. 醸造の特徴
テロワールの表現を何よりも大事にするチェレット。その秘訣についても2つ紹介したい。
各畑の中に醸造所を持つ
大きな醸造センターに集約するのではなく、各畑の中に醸造所を持つことにより、伝統的な醸造方法と最新設備を用いた醸造方法をワインによって使い分け、それぞれの個性を表現することに注力している。資金力があるからこそできることだとは思うが、収穫したブドウをすぐに仕込むことができるし、ブドウにとっては最高の環境だ。
今回訪問したのは、モンソルド・ベルナルディーナ醸造所。チェレットの中心的ワイナリーでオフィス機能を持つ場所。年間1~1.5万人のお客様を迎えるそう。団体客ではなく少人数に分けてしっかりとチェレットについてお話する機会を設けているというのだから、手厚い。
こちらの醸造所では定番人気のワインを主に醸造しており、前段で紹介したアルネイス ブランジェやモンソルド・ロッソもこちらの醸造所で仕込まれている。
その他にも3つの醸造所を所有する。ブリッコ・ロッケ醸造所は、ブリッコ・ロッケ畑の中にある醸造所で、6つのクリュ・バローロ製造のための専用醸造所。ブリッコ・アジリ醸造所は、1973年に建てられた、チェレット初の醸造所で、3つのクリュ・バローロ製造のための専用醸造所。サント・ステファノ醸造所は、創業者リッカルド氏の出身地アスティの名産品、モスカート品種でつくられるモスカート・ダスティを製造するための醸造所。現在、チェレットが別会社と共同経営する場所で、高品質で酸味と甘みのバランスがよい微発泡のワインを製造している。
人の介入を極力減らす!
醸造の過程で大事にしているのは、人の介入を極力減らすこと。2008年以降、発酵時に用いる酵母を培養酵母から自然酵母に切り替えたそう。また、赤ワインはステンレスタンクまたは樽で発酵させた後、樽で熟成させるが、新樽の利用は極力控え、樽由来のタンニンや香りでワインの個性を隠さないようにしているそう。品種が異なるものや、同じ品種でも栽培場所が異なるものは、別々に樽保管され、ボトリング前にテイスティングの上、ブレンドされる。
規定上、バローロやバルバレスコはある一定期間樽熟成を経る必要があるが、それを越えると自由になる。長期熟成はしつつ、樽の影響を減らすため、アンフォラを使う実験も進めているそう。どこまで進化が進むのか。今から楽しみである。
5. ワインだけじゃない!
ワインのみならず、アルバの食文化全体の伝道師でもあるチェレット。今回、ドゥオーモがあるアルバの中心地の広場に面する「La Piola」にお邪魔した。ここはチェレットが経営するトラットリア。
地元の食材をふんだんに使ったイタリアンとチェレットを始めとする地元のワインが楽しめる場所だ。ちょうど、お邪魔したのは白トリュフが解禁されたタイミング!白トリュフを贅沢に使ったパスタを口にした瞬間、昇天…白トリュフが出回る時期に行く機会があれば、ぜひオススメしたい逸品だ。尚、こちらと同じ建物の2階には、同じくチェレットが経営する3つ星レストランの「ピアッツァ・ドウモ」もあるので、もし予約できそうならば、こちらもオススメしたい。
レストランに行く時間がない…という方でも、モンソルド・ベルナルディーナ醸造所では、地元の特産品であるヘーゼルナッツを使ったお菓子が販売されているので、ワイナリー訪問時に手に取って頂きたい。ワインだけでなく、アルバの食文化の奥深さを味わえるはずだ。
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