1731年創業のドメーヌ・ブシャール・ペール・エ・フィス(以下、ブシャール)。コート・ドールにグラン・クリュを12ha、プルミエ・クリュを74ha、総面積130haの自社畑を所有するコート・ドール最大級のドメーヌで、その名前を聞いたことのある方も多いだろう。
歴史や畑、醸造の特徴については、前回の記事(→こちら)に纏めてあるので、ぜひチェックして頂きたい。今回は、ブシャールExport Manager Japanの西山雅巳さんに圧巻の地下セラーをご紹介頂いたので、その様子をお届けしたい。
1. 15世紀の要塞の地下に広がる貯蔵庫
ブシャールの社屋として使われているシャトーは、15世紀にルイ11世が要塞として築いたもので、1820年にブシャール家が購入したものだ。地上階は社屋として利用されているが、その地下は熟成庫として今も使われている。因みに、15世紀は日本では室町時代、足利家治世の時である。いやぁ、時代を感じる…
要塞として利用されていただけあり、城壁は5-6mと非常に厚い。また、地下10m程に位置するので、外からの影響が遮断されている。換気口はあるものの空調設備は一切なしで適温が保たれ、地下水の影響もあり、湿度も保たれ、抜群の貯蔵庫となっている。
この場所に眠るワインの数は、なんと300万本!これまでの選りすぐりのワイン達だ。こちらには、毎年、生産量の1%が貯蔵される仕組みになっているそうで、その他のすぐ飲む用のワインは醸造施設の近くに貯蔵されているそうだ。
一番古いのは1846年のムルソー・シャルム!180年近く前のものだ…これ以外にも1800年代のワインは1500本あるそう。宝の山。こうしてワインを貯蔵するのは、傑作を残すことで、次の世代にバトンを繋ぐという目的があるからだそう。ワイン界のルーブル美術館といってもいいのではないだろうか。
2. 歴史にタラレバはないが
第二次世界大戦中にシャンパーニュやボルドーで、ドイツ軍によるワインの略奪行為が頻繁に起こったのは有名な話だ。ブルゴーニュ地方でも略奪行為はあったそうだが、このワインセラーは無傷に終わったそうだ。ボーヌに駐留していたのがドイツ軍の精鋭部隊だったので略奪行為が起こりにくかった為とも、ドイツの司令官の実家がブルゴーニュワインの商いを行っていたのでワインを無駄にしたくないと考えた為とも言われたりするが、真相は定かではない。いずれにせよ無事で、1800年代のワインも脈々と後世に繋ぐことができているという事実が何よりも喜ばしい。
3. ナンバリングの妙
地下セラーでは、ワイン毎にナンバリング管理されている。気になるのは、どういう順番になっているかということ。確かに1桁、2桁クラスのものは古いワインであることに違いないのだが、1から順番に古いワインになっているという訳ではないらしい。因みに、「1」は1904年のシャブリだそう。1番古いという訳ではないが、120歳を迎えるご長寿ワインだ。
ここにあるワインは、造られてから一度も動いていない
と西山さんは仰る。ただ古いだけではなく、移動によるストレスも一切感じたこともなく、また安定した最適な環境に守られた、箱入り娘達が眠る場所なのだ。
4. 古いものだからこそのリコルク
では、造ってからほったらかしなのかというと、決してそうではない。コルクを新しいものに変えるリコルクという作業を40年毎に行い、コルクの劣化による密閉性の低下を防ぐのだ。全てのワインはテイスティングして状態を確認し、状態がいいものだけを残す。その際、目減りしたワイン分を継ぎ足すため、数本は犠牲になる。もったいない…なんて貧乏性を出してしまっては、最高の状態でワインを保管できなくなるので、ここは太っ腹でいく必要がある。そして、アペラシオンとヴィンテージ、リコルクした年を記載したコルクでリコルクされ、更なる眠りにつくのだ。こういう地道な作業があるからこそ、1800年代のワインが健全な状態で残っているのだろう。
5. ぜひ見てみてほしい
地下に広がるカーヴ。その中の一角に、天井から鍾乳石がつらら状に垂れ下がる場所がある。このあたりの岩が石灰質であることがよく分かる光景だ。環境によるらしいが、100年で1㎝ほどしか成長しないと言われているそうなので、いかに長い年月をかけてこの光景が生まれているかが分かるだろう。
元々は要塞だったという場所だけあり、これは暖炉だったのだろうか…もしやここは拷問部屋だったのだろうか…と思われる場所がチラホラある地下カーヴ。見学を終えて地上階に上がると、そこは迎賓館のお庭に。地下のカーヴは言葉を失うほど圧巻なのだが、地上階のお庭もこれまた明るく美しい。明暗のコントラストがすごい場所だ!
これぞ贅沢な造りの場所で、終始目を丸くしっぱなしの我々。この感動を皆さんにも味わって頂きたい。
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