さて、北海道は千歳の地で、日本のピノ的な複雑性を大いに発揮する三澤さん。山梨県を代表するワイナリー「中央葡萄酒株式会社」の経営一族の長男として生まれた彼は、約6年間のアメリカ留学で化学を学んだのち、山梨県より遠く離れた北の地でワイナリー経営に取り組んでいる。

JR千歳駅より徒歩10分ほど、市街地の中に構える石造りの巨大な建造物。 醸造施設は、昭和30年代に建設された穀物倉庫を改修して造られた。 札幌軟石を使用した歴史的価値の高い建物、天井を渡る幾重にも組まれた木の梁が荘厳な空気を醸し出す。

山梨の圃場では冷涼品種で良い結果を得ることが難しい。しかし、北海道という冷涼地であればそういった品種に挑戦できる。そんな思いがあり、契約農家さんを探していました。特にピノ・ノワールは父(三澤茂計さん)が追う夢でもありました。その中で余市の木村さんとの出会いは1992年です。当時、すでに木村農園ではピノ・ノワールが栽培されており、実績がありました。また、ピノ・ノワールの栽培を受託していただける農家さんも、木村農園だけだったのです。
余市町登地区、ちょうどキャメルファームに隣接して広がる木村農園は、凝灰質砂岩土壌の緩やかな東向きの斜面上に位置する。1993年から植樹・栽培が始まった「北海道中央葡萄酒」の区画。1.5haからスタートした栽培面積は、現在2.0haになった。

1988年、中央葡萄酒の第二支店として設立された「グレイスワイン 千歳ワイナリー」。 今現在は、ピノ・ノワール、ケルナーを使用した高品質なワインが注目されるが、始まりは北海道の特産果樹であるハスカップを原料とした醸造酒の製造だった。
「白葡萄にはリースリングを考えていましたが、北海道では11月までに成熟しないと、木村さんの指摘がありました。生産量をとれる代替として、交配品種のケルナー、ミュラー・トルガウ、バッカスが挙がりましたが、その中で最もボディがのっていたのがケルナーです。」
北海道中央葡萄酒が栽培を委託する区画では、樹齢20年ほどのケルナーと、10年、25年、35年の3区画に分けられるピノ・ノワール、その2種のみが栽培されている。設立以来、中央葡萄酒が契約する農家は「木村農園」一軒のみだ。
ピノ・ノワールにこだわり、栽培を行わないからこそ醸造へ集中できる環境の中で、ワインに対するアプローチにも柔軟な姿勢が現れる。

2012年からは、フラッグシップワイン「ピノ・ノワールプライヴェートリザーヴ」の生産を開始した。
熟成中のバレルサンプルから、官能検査によって優れた数樽を選抜し、ボトリングしたキュヴェだ。
試飲に出してくださったのは、 その2014年ヴィンテージ。グレートヴィンテージのフラッグシップワボトルだ。
煉瓦色に傾いたピノ・ノワールは、未だ骨格に優れ、力のある香りと余韻が印象的。大きなボウルのグラスにも耐える、ピュアでありながら充実したピノ・ノワールだ。