都農はワイン産地として決して恵まれているとは言えない。雨が多く、台風が頻発するこの地域は、「日本一不適地」と赤尾さんが評するほど、ブドウ栽培に不向きな土地だ。そんな場所であっても、海外メディアで高評価を受け、国内外の品評会でも数多くの賞を受賞している。

そもそも、なぜ、この地でワインが造られるようになったのか?
戦後間もない1953年前後まで時は遡る。尾鈴山から流れる名貫川付近には、ゴロタ石という丸い石が広がり、その上に火山灰土壌が堆積した畑が広がる。地が浅く水漏れが頻繁に起こる場所で稲作が行われていたこともあり、水を巡る争いも多かった。そんな中、永友百二という一人の農家が争いを抑えるべく、稲作に頼らない農業を目指し、19歳で梨の栽培を始めた。雨の多い都農で果樹栽培は不可能と言われ、「田んぼに木を植えるなんて」と周囲から非難もあったそうだが、研鑽を積み、全国梨品評会で一等を受賞するほどの実績を上げる。そして、終戦後はブドウ栽培にも着手。当時の文献に「ぶどう酒仕込み」の文字もあり、ワインも造られていたようだ。

牧内台地の基盤は約1500万年前に尾鈴山が噴火した際の溶岩が固まってできたもので、溶結凝灰岩と呼ばれる。その上に火山灰が積もっている場所だ。土壌は火山灰土壌(黒ボク土)で、雨の多いこの地域にとってありがたい排水性に優れている一方、ブドウを育てる上で必要となるカルシウムやマグネシウムなどのミネラル分が乏しいというマイナス面がある。特にカルシウムは、ヨーロッパの銘醸地の1/10の量しかないそうだ。赤尾さんは言う。
「カルシウムが少ない大地は、謂わば『水より軽い土』。だから水はけがいい。フランスのカルシウム豊富な大地は『水より重く』保水性があるので、排水性を高めるためにブドウを斜面に植える傾向がある。では、カルシウムがワインに与える影響が何かというと、ブドウの色や渋み。同じシラーでもフランスのシラーは色も濃くタンニンもあるフルボディタイプ。日本のシラーは色が淡く、渋みも少ないライトボディに仕上がる。」と。

これはブドウだけに当てはまるものではない。赤尾さんは続けた。
「カルシウムたっぷりのフランスの大地で育ったトマトは驚くほど味が濃く、トマトで出汁が取れるほど。同じようにその大地で育った草を食べた牛からできる牛乳やチーズも濃厚に仕上がる。そういうチーズと合うのはフランスのワイン。逆に言うと、日本のしょうゆやポン酢、味噌と合うのは日本のワイン。日本の大地で育ったタケノコに合うのは日本のワインであるべき。僕たちは、宮崎の大地で育った鶏を使ったチキン南蛮に合うワインを造っているのです。」

雨の多い都農で農薬を減らし、有機肥料で栽培を行う。さらりと仰ったが、相当な困難と試行錯誤があって今のスタイルに落ち着いたのだろう。
しかも、南国にも関わらず、海風の影響で真夏でも35℃程度までしか上がらず、昼間は山梨よりも涼しいそうだ。海から4km程度離れていることもあり、塩害はない。
また、牧内台地には3つの滝があり、尾鈴山からの冷涼水脈がある。都農ワインの圃場♯6(6区)は、高品質のブドウを実らせることで有名だ。実はこの圃場近くには水が沸く湿原がある。確かに育成期前半は高い湿度から病気の心配が尽きないが、冷涼水脈によって夜間の気温がグンと下がることから、特に後半の成長期にブドウの風味が増す。
受賞多数の高品質ワインはこの地区のブドウが使われている。まさに自然の恵みだ。
普段の食卓で気軽に楽しめるもの。親しみやすさと同時に都農のテロワールを感じられるもの。こういうワインを表現したいと考えできたのがアンベラシー・シリーズだ。
都農で育った複数のブドウ品種をアッサンブラージュ(組み合わせ)したもので、品種を組み合わせたからこそ表現できる味わいとなっている。ちなみに「アンベラシー」は「いい塩梅」という意味の都農の言葉だ。