日本ワインコラム

THE CELLAR ワイン特集
日本ワインコラム~北海道・空知ナカザワヴィンヤード

日本ワインコラム~北海道・空知ナカザワヴィンヤード

日本ワインコラム | 北海道・空知 ナカザワヴィンヤード 東京都東久留米市。 西武池袋線が動脈として横たわるこの町で、かつて、少年は電車の運転士を志した。 今日では、西武を代表する2000系から最新の40000系、01系 Laviewまでも。さらに欲張れば、東京メトロ10000系、東急5050系までも操縦することができるであろう、魅力に欠かない西武池袋線。 しかし、クハ2001の運転席にかつての少年の姿はない。 北海道岩見沢市(旧栗沢市) 。中澤一行さんが選んだ場所は、池袋へ伸びるレールの上ではなく、空へ伸びる葡萄の畝だった。 「学生時代のことですが、友人に誘われて北海道を旅行しました。無計画な車の旅で、道内をあてもなくぐるっと回ったんです。その中で広大な自然や街を見て、まるで日本じゃないみたいだと思いました。もともと知識も興味もなかったのに、いつの間にか北海道への移住願望が芽生えたんです。」   電機メーカーへの就職後、移住の夢を諦めきれず、北海道ワインへ転職した。北海道で陽の光を浴びることができる職につきたかった。しかし、栽培の責任者になって以降、自分のワイン造りに対する情熱が湧いた。2002年に葡萄栽培の新規就農者として独立し、ブルース・ガットラヴさんが醸造責任者を務めるココファームへの醸造委託を始めた。クリサワブランはここに生まれ、以降北海道白ワインの中でも抜群の人気を博す。2012年以降は、ブルースさんの10R設立に伴い、カスタム・クラッシュワイナリーにて、自身も醸造に関わり始めた。現在は、Kondoヴィンヤードとの共同醸造所にて、ワイン造りを行っている。 畑には南向きの緩やかな斜面を選んだ。「空が広い」畑の周囲には、日差しを遮るものが何もなく、日昇から日没まで絶えず陽光に満ちている。葡萄栽培の北限の地では、いい条件の畑でないと葡萄は育たない。選んだのは、厳しい環境下で数少ない葡萄栽培にうってつけの土地だった。 「雑草草生栽培」によって管理される畑には、匿名の草たちが、葡萄の足元を覆うように生茂る。  一般に秋の口には除葉が施さていれることが多い葡萄も、ここでは多くが葉のつくる影の中にいた。 「基本のポリシーは、余計なことはしないことです。 余計な作業はしない。最低限はやりますが、あまり除葉もしません。手をかけすぎないで、葡萄が本当に必要としている作業を見極めることが大事です。」 畑には、ピノ・グリ、シルヴァネール、ゲヴュルツトラミネールを主として、多品種が植えられる。ある程度区画分けされているが、それは混植に近い状態だ。 「北限にあっては栽培できる品種が限られます。 北海道ワインに勤めていたため、何となく品種の分別がついていました。その中で、より可能性があり、また、誰もやっていない品種を探っていました。そうして、たどり着いたのがゲヴュルツトラミネールやピノ・グリ、シルヴァネールといった品種です。」 中でも、ゲヴュルツトラミネールには、強い関心が示される。 「ゲヴュルツトラミネールは、北海道以外の土地では成熟が難しい品種です。長野県の標高の本当に高いところなどでは可能なのかもしれませんが。この品種は敬遠されがちで、というのも、単位面積当たりの収量が上がらないことや、香りが強すぎる点で、あまり評価されていないのです。しかし、土地に気候にあっている、この品種は外せません。」 中澤さんが、供してくださったのは 「ナカザワヴィンヤード トラミネール 2018」。 収量が多いヴィンテージにのみ造られる、ゲヴュルツ・トラミネール100%のワインだ。その味ワインに慄然とした。 香りから味わい、余韻まで、ここまで強かに構えるゲヴュルツは他にないだろう。のぼせた芳香は抑制され、酸を軸とした背骨が青白くスッと全体を貫く。 「温度が上がっても、一貫した酸があります。だから、(味わいとして)ダレない。」 そういった至高のワインを生み出す醸造を語る際に、由紀子さんが繰り返すのは「触らない」というシンプルなアイディアだ。...

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日本ワインコラム~北海道・空知ナカザワヴィンヤード

日本ワインコラム | 北海道・空知 ナカザワヴィンヤード 東京都東久留米市。 西武池袋線が動脈として横たわるこの町で、かつて、少年は電車の運転士を志した。 今日では、西武を代表する2000系から最新の40000系、01系 Laviewまでも。さらに欲張れば、東京メトロ10000系、東急5050系までも操縦することができるであろう、魅力に欠かない西武池袋線。 しかし、クハ2001の運転席にかつての少年の姿はない。 北海道岩見沢市(旧栗沢市) 。中澤一行さんが選んだ場所は、池袋へ伸びるレールの上ではなく、空へ伸びる葡萄の畝だった。 「学生時代のことですが、友人に誘われて北海道を旅行しました。無計画な車の旅で、道内をあてもなくぐるっと回ったんです。その中で広大な自然や街を見て、まるで日本じゃないみたいだと思いました。もともと知識も興味もなかったのに、いつの間にか北海道への移住願望が芽生えたんです。」   電機メーカーへの就職後、移住の夢を諦めきれず、北海道ワインへ転職した。北海道で陽の光を浴びることができる職につきたかった。しかし、栽培の責任者になって以降、自分のワイン造りに対する情熱が湧いた。2002年に葡萄栽培の新規就農者として独立し、ブルース・ガットラヴさんが醸造責任者を務めるココファームへの醸造委託を始めた。クリサワブランはここに生まれ、以降北海道白ワインの中でも抜群の人気を博す。2012年以降は、ブルースさんの10R設立に伴い、カスタム・クラッシュワイナリーにて、自身も醸造に関わり始めた。現在は、Kondoヴィンヤードとの共同醸造所にて、ワイン造りを行っている。 畑には南向きの緩やかな斜面を選んだ。「空が広い」畑の周囲には、日差しを遮るものが何もなく、日昇から日没まで絶えず陽光に満ちている。葡萄栽培の北限の地では、いい条件の畑でないと葡萄は育たない。選んだのは、厳しい環境下で数少ない葡萄栽培にうってつけの土地だった。 「雑草草生栽培」によって管理される畑には、匿名の草たちが、葡萄の足元を覆うように生茂る。  一般に秋の口には除葉が施さていれることが多い葡萄も、ここでは多くが葉のつくる影の中にいた。 「基本のポリシーは、余計なことはしないことです。 余計な作業はしない。最低限はやりますが、あまり除葉もしません。手をかけすぎないで、葡萄が本当に必要としている作業を見極めることが大事です。」 畑には、ピノ・グリ、シルヴァネール、ゲヴュルツトラミネールを主として、多品種が植えられる。ある程度区画分けされているが、それは混植に近い状態だ。 「北限にあっては栽培できる品種が限られます。 北海道ワインに勤めていたため、何となく品種の分別がついていました。その中で、より可能性があり、また、誰もやっていない品種を探っていました。そうして、たどり着いたのがゲヴュルツトラミネールやピノ・グリ、シルヴァネールといった品種です。」 中でも、ゲヴュルツトラミネールには、強い関心が示される。 「ゲヴュルツトラミネールは、北海道以外の土地では成熟が難しい品種です。長野県の標高の本当に高いところなどでは可能なのかもしれませんが。この品種は敬遠されがちで、というのも、単位面積当たりの収量が上がらないことや、香りが強すぎる点で、あまり評価されていないのです。しかし、土地に気候にあっている、この品種は外せません。」 中澤さんが、供してくださったのは 「ナカザワヴィンヤード トラミネール 2018」。 収量が多いヴィンテージにのみ造られる、ゲヴュルツ・トラミネール100%のワインだ。その味ワインに慄然とした。 香りから味わい、余韻まで、ここまで強かに構えるゲヴュルツは他にないだろう。のぼせた芳香は抑制され、酸を軸とした背骨が青白くスッと全体を貫く。 「温度が上がっても、一貫した酸があります。だから、(味わいとして)ダレない。」 そういった至高のワインを生み出す醸造を語る際に、由紀子さんが繰り返すのは「触らない」というシンプルなアイディアだ。...

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北海道・空知 10R

北海道・空知 10R

日本ワインコラム | 北海道・空知 10R / vol.2 ----- 訪問日:2021年7月19日 / vol.1 はこちら ▲ ウサギなど野生動物による被害が激しいとおっしゃっていたのは昨年。ついに今年は自社畑に金属製の柵が設置されていた。 高校生の時にチェーンのハンバーガー屋さんでアルバイトをしていたんですが、そのときに『こういう仕事は絶対にしたくない。自分は好きなことを仕事にできないとダメだ。』と思ったんです。大学では医学の勉強を始めたけれど、周囲は皆すごく真面目で、一方私は不真面目で遊んでばかりいました。そのときに、またハンバーガー屋さんのことを思い出して、この勉強も自分にとっては好きなものとはちょっと違うな、と思いました。 医学生としての道を逸れ、友人とともにワインテイスティング・コースに参加したことがきっかけでワインにのめり込んだブルースさんは、UCデイヴィスで醸造を修める。卒業後はナパヴァレーでのコンサルタントを経て、ココ・ファームで醸造を手掛けた。そして、北海道の地で独立をする際、ココ・ファームでの問題意識をより具体的に解決していく方法として選んだのが、委託醸造というスタイルだった。 もともと委託醸造所をつくりたかったんです。 当時、日本には他に例がありませんでした。本業で委託醸造やっているところはなかったんです。 その動機としては、だいぶ前の話ですけどココ・ファームで海外原料を使用してワインを造っていた、ということがあります。畑を用意する必要もなく、電話一本で届くし、価格も安かったのですが、それはやっぱりやめたほうがいいと思っていました。コスト面でのメリットがあまりにも大きかったので、理解をしてもらうには中々の時間がかかりましたが、最終的には90年代半ばに全てを国産原料に切り替えました。その一方で、日本で良い葡萄を見つけることはとても難しいことでした。日本での葡萄栽培はやはり困難なものでしたが、そこで日本の葡萄栽培技術を向上させていきたいと思ったのです。 北海道をはじめ、新しい生産者が次々と生まれている地域では、ドメーヌに拘る傾向が強く存在している。ある種、自己実現的な要素が強い分野であるから、0から10までを自分自身の手で仕上げたいという思いが、新規ワイナリーに共通しやすい理想であることは納得のいく話だ。一方で、委託醸造は葡萄農家の育成というより、産業の発展に主眼が置かれた取り組みである。ワインを造れば、原料の葡萄の質がわかる。原料の質が分かれば、その品質の向上を目指した改善をすることができる。結果的にワイン造りが葡萄栽培の技術を押し上げるというものだ。 ▲ 10Rワイナリーのブルース・ガットラヴさん。訪問日は忙しく瓶詰めをされていました。 地方を回って若い葡萄栽培家と話をしているときに、できれば自分の葡萄だけでワインを造ってほしい、と言われることが多くありました。 そうすることで、自分の葡萄の質が見えてくるからです。 ココ・ファームでは一部でそういうこともやっていましたけれど、まだ量としては少しだけでした。そういう栽培家の思いを汲んだ上で、やはり委託醸造所が必要だと感じました。農家の方が最初にワインを造る際、色々なハードルがありますが、委託醸造所があることでそういった問題がクリアになってくる。 やはりいいワインを造っていくためには、葡萄農家が育っていかないといけません。それは日本ワイン全体の今後の成長のためにも絶対必要なことですし、それができていれば成長は早いと思います。 また、新規ワイナリー立ち上げを志す人々が、10Rでの委託醸造を経て独立をはたしているというのも事実だ。 実際に、我々が北海道で訪問したワイナリーのうち5軒は、“10R卒業生”といったような括りで呼ぶことが出来る生産者だ。そういった卒業生たちのワインや、上幌ワインとしてリリースしている自社ブランドのワインについて、共通するのが自然なワイン造りである。謂わばナチュラルなスタイルを日本に伝えた第一人者とも言える彼が、現在の彼自身のワイン造りを振り返るとき、そこには偶然性や不均質性のような、イレギュラーをポジティヴに受け入れる姿勢が垣間見られる。 赤はピノ・ノワールで白はソーヴィニヨン・ブラン。 両方とも最初から質的には良いものが取れているのですが、まだ満足できる収量に達していません。あと、ピノ・ノワールはもっと深い味わいにしたいのですが、まだ若木だからやや単調な味わいの果実が採れているだけで、時間の問題だと思います。また、赤にも白にも言えますが、収穫時に畑の場所によって果実の熟度にバラつきがあります。バランスを取ることも重要だけれども、そういったバラつきがあっても良いと思っています。その方がいろいろな味わいがワインの中に現れて面白いと思うんです。 自らを「伝統的なイタリアワイン」に例えるブルースさん。どこか野暮ったいような側面がありながらも、適切なシーンにおいてはそれが見事な美点として作用する。そのような不揃いな味わいという特徴に価値を見出す姿勢も、自然な造りによる不均質を面白いとすると共通の軸を持っているように思われる。...

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北海道・空知 10R

日本ワインコラム | 北海道・空知 10R / vol.2 ----- 訪問日:2021年7月19日 / vol.1 はこちら ▲ ウサギなど野生動物による被害が激しいとおっしゃっていたのは昨年。ついに今年は自社畑に金属製の柵が設置されていた。 高校生の時にチェーンのハンバーガー屋さんでアルバイトをしていたんですが、そのときに『こういう仕事は絶対にしたくない。自分は好きなことを仕事にできないとダメだ。』と思ったんです。大学では医学の勉強を始めたけれど、周囲は皆すごく真面目で、一方私は不真面目で遊んでばかりいました。そのときに、またハンバーガー屋さんのことを思い出して、この勉強も自分にとっては好きなものとはちょっと違うな、と思いました。 医学生としての道を逸れ、友人とともにワインテイスティング・コースに参加したことがきっかけでワインにのめり込んだブルースさんは、UCデイヴィスで醸造を修める。卒業後はナパヴァレーでのコンサルタントを経て、ココ・ファームで醸造を手掛けた。そして、北海道の地で独立をする際、ココ・ファームでの問題意識をより具体的に解決していく方法として選んだのが、委託醸造というスタイルだった。 もともと委託醸造所をつくりたかったんです。 当時、日本には他に例がありませんでした。本業で委託醸造やっているところはなかったんです。 その動機としては、だいぶ前の話ですけどココ・ファームで海外原料を使用してワインを造っていた、ということがあります。畑を用意する必要もなく、電話一本で届くし、価格も安かったのですが、それはやっぱりやめたほうがいいと思っていました。コスト面でのメリットがあまりにも大きかったので、理解をしてもらうには中々の時間がかかりましたが、最終的には90年代半ばに全てを国産原料に切り替えました。その一方で、日本で良い葡萄を見つけることはとても難しいことでした。日本での葡萄栽培はやはり困難なものでしたが、そこで日本の葡萄栽培技術を向上させていきたいと思ったのです。 北海道をはじめ、新しい生産者が次々と生まれている地域では、ドメーヌに拘る傾向が強く存在している。ある種、自己実現的な要素が強い分野であるから、0から10までを自分自身の手で仕上げたいという思いが、新規ワイナリーに共通しやすい理想であることは納得のいく話だ。一方で、委託醸造は葡萄農家の育成というより、産業の発展に主眼が置かれた取り組みである。ワインを造れば、原料の葡萄の質がわかる。原料の質が分かれば、その品質の向上を目指した改善をすることができる。結果的にワイン造りが葡萄栽培の技術を押し上げるというものだ。 ▲ 10Rワイナリーのブルース・ガットラヴさん。訪問日は忙しく瓶詰めをされていました。 地方を回って若い葡萄栽培家と話をしているときに、できれば自分の葡萄だけでワインを造ってほしい、と言われることが多くありました。 そうすることで、自分の葡萄の質が見えてくるからです。 ココ・ファームでは一部でそういうこともやっていましたけれど、まだ量としては少しだけでした。そういう栽培家の思いを汲んだ上で、やはり委託醸造所が必要だと感じました。農家の方が最初にワインを造る際、色々なハードルがありますが、委託醸造所があることでそういった問題がクリアになってくる。 やはりいいワインを造っていくためには、葡萄農家が育っていかないといけません。それは日本ワイン全体の今後の成長のためにも絶対必要なことですし、それができていれば成長は早いと思います。 また、新規ワイナリー立ち上げを志す人々が、10Rでの委託醸造を経て独立をはたしているというのも事実だ。 実際に、我々が北海道で訪問したワイナリーのうち5軒は、“10R卒業生”といったような括りで呼ぶことが出来る生産者だ。そういった卒業生たちのワインや、上幌ワインとしてリリースしている自社ブランドのワインについて、共通するのが自然なワイン造りである。謂わばナチュラルなスタイルを日本に伝えた第一人者とも言える彼が、現在の彼自身のワイン造りを振り返るとき、そこには偶然性や不均質性のような、イレギュラーをポジティヴに受け入れる姿勢が垣間見られる。 赤はピノ・ノワールで白はソーヴィニヨン・ブラン。 両方とも最初から質的には良いものが取れているのですが、まだ満足できる収量に達していません。あと、ピノ・ノワールはもっと深い味わいにしたいのですが、まだ若木だからやや単調な味わいの果実が採れているだけで、時間の問題だと思います。また、赤にも白にも言えますが、収穫時に畑の場所によって果実の熟度にバラつきがあります。バランスを取ることも重要だけれども、そういったバラつきがあっても良いと思っています。その方がいろいろな味わいがワインの中に現れて面白いと思うんです。 自らを「伝統的なイタリアワイン」に例えるブルースさん。どこか野暮ったいような側面がありながらも、適切なシーンにおいてはそれが見事な美点として作用する。そのような不揃いな味わいという特徴に価値を見出す姿勢も、自然な造りによる不均質を面白いとすると共通の軸を持っているように思われる。...

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日本ワインコラム~北海道・達布 山崎ワイナリー

日本ワインコラム~北海道・達布 山崎ワイナリー

日本ワインコラム | 北海道・達布 山崎ワイナリー 「総理大臣ですね。」 小さい頃の夢を問われた大人がそう答える場面に居合わせることなんて、ほとんどない。 アルコールを摂取しているか、行き過ぎた懐古趣味か、あるいはその両方か。 生来の野心家である。という最もシンプルな選択肢は想像に難い。 大人という生き物は、過去に対して斜に構えられるくらいにはお利口だからだ。 「小学生の頃ですが、通学路にゴミが落ちていたのです。  それらをなくすにはどうしたらいいのかを突き詰めて考えた結果、総理大臣になりたいと思いました。  この地域のゴミだけが無くなればいいのか、なんてことも考えて、段階を踏んだうえで辿り着いた夢です。  ちなみに、まだ諦めてはいません。可能性は0ではありませんから。」 どんな小学生だ。 ともあれ、彼は野心家であった。 山﨑ワイナリ-で葡萄栽培を担当する山﨑太地さん。 彼の野心の先には、地域貢献というキーワードがある。 この土地での僕たちのワイン造りは、過疎すすむ地域の中、観光業の分野でどこまで地域に寄与貢献できるかという挑戦とも言い換えられます。まず達(たっ)布(ぷ)という小さな土地に人を呼んでこなければならない。それには、達布にいい農村を築かなければならない。そのためにいいワインが必要だ。そういった順序での考えのもと、その実現のために頑張って毎日葡萄畑に立っています。 三笠市は過疎化が深刻な地域の一つだ。国勢調査によると2015年時点での人口は9,076人。5年前と比較して11%以上の減少をみせた。達布は三笠市の中央、アイヌ語で「頂上の丸い山」を意味する達布山とその山裾によって構成される地区だ。 山﨑家は4代に渡って、その地で農業を営んできた。父・和幸さんの代では大規模な穀物栽培へと事業をシフトしたが、農産物の高付加価値化、農家の自立を目指し、葡萄栽培から醸造、販売までを家族で手掛けるワイナリー事業への取り組みを開始、2002年に「山﨑ワイナリー」を設立した。ワインの生産がしっかりとした基盤として完成された現在、山﨑さんがその先に見据えるのは、農村への観光だ。 「達布という土地に来て、ワインを飲んで、買って、帰っていくという観光のモデルでどこまで人を集められるか。というのが課題です。年々温暖化が進んでいる北海道ですから、十勝、帯広のような平地で農作物を武器に観光分野で勝負することは厳しいと思っています。一方で、達布のような斜面の土地であれば葡萄の栽培や、農村の景観を強みとして勝負できる。これは僕たちの利点になりえると考えています。」 観光分野での地域貢献を目指す山﨑ワイナリーで、まず眼を奪われるのが瀟洒な木造建築だろう。 週末に営業している直販のワインショップは、木の温かみを感じる明るい空間に仕上がっている。 大規模なワイナリーを除いて、こういった施設を持つことはあまり多くのケースがない。 感染予防の観点から現在は試飲を行っていないとのことだが、本来であれば試飲用のボトルが立ち並ぶ。 「山﨑ワイナリーではワインの販売量に関して、7割を直販、2割をインターネット販売、1割を酒販店卸で割り振りをしています。 最も楽な方法は全量を酒販店へ卸すことですが、観光モデルを作っていく中で、ワイナリーでワインを販売することの価値を重く見ています。また、6年前になりますが音楽フェスも開催しました。ワイナリーの裏手にステージがあるのです。道内のイベント企画会社、芸能プロダクションと協力し、延べ1200人を動員しました。少し離れた大型ショッピングモールの駐車場を借りて、ワイナリーとの間をシャトルバスに往復してもらって。」   観光地としての発展にはやはり交通機関が欠かせないが、周辺状況はなかなか厳しい。 1時間に1度停車する各駅停車を擁する無人の峰延駅の前には、タクシープール3つ分の罅割れたアスファルトが広がる。...

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日本ワインコラム~北海道・達布 山崎ワイナリー

日本ワインコラム | 北海道・達布 山崎ワイナリー 「総理大臣ですね。」 小さい頃の夢を問われた大人がそう答える場面に居合わせることなんて、ほとんどない。 アルコールを摂取しているか、行き過ぎた懐古趣味か、あるいはその両方か。 生来の野心家である。という最もシンプルな選択肢は想像に難い。 大人という生き物は、過去に対して斜に構えられるくらいにはお利口だからだ。 「小学生の頃ですが、通学路にゴミが落ちていたのです。  それらをなくすにはどうしたらいいのかを突き詰めて考えた結果、総理大臣になりたいと思いました。  この地域のゴミだけが無くなればいいのか、なんてことも考えて、段階を踏んだうえで辿り着いた夢です。  ちなみに、まだ諦めてはいません。可能性は0ではありませんから。」 どんな小学生だ。 ともあれ、彼は野心家であった。 山﨑ワイナリ-で葡萄栽培を担当する山﨑太地さん。 彼の野心の先には、地域貢献というキーワードがある。 この土地での僕たちのワイン造りは、過疎すすむ地域の中、観光業の分野でどこまで地域に寄与貢献できるかという挑戦とも言い換えられます。まず達(たっ)布(ぷ)という小さな土地に人を呼んでこなければならない。それには、達布にいい農村を築かなければならない。そのためにいいワインが必要だ。そういった順序での考えのもと、その実現のために頑張って毎日葡萄畑に立っています。 三笠市は過疎化が深刻な地域の一つだ。国勢調査によると2015年時点での人口は9,076人。5年前と比較して11%以上の減少をみせた。達布は三笠市の中央、アイヌ語で「頂上の丸い山」を意味する達布山とその山裾によって構成される地区だ。 山﨑家は4代に渡って、その地で農業を営んできた。父・和幸さんの代では大規模な穀物栽培へと事業をシフトしたが、農産物の高付加価値化、農家の自立を目指し、葡萄栽培から醸造、販売までを家族で手掛けるワイナリー事業への取り組みを開始、2002年に「山﨑ワイナリー」を設立した。ワインの生産がしっかりとした基盤として完成された現在、山﨑さんがその先に見据えるのは、農村への観光だ。 「達布という土地に来て、ワインを飲んで、買って、帰っていくという観光のモデルでどこまで人を集められるか。というのが課題です。年々温暖化が進んでいる北海道ですから、十勝、帯広のような平地で農作物を武器に観光分野で勝負することは厳しいと思っています。一方で、達布のような斜面の土地であれば葡萄の栽培や、農村の景観を強みとして勝負できる。これは僕たちの利点になりえると考えています。」 観光分野での地域貢献を目指す山﨑ワイナリーで、まず眼を奪われるのが瀟洒な木造建築だろう。 週末に営業している直販のワインショップは、木の温かみを感じる明るい空間に仕上がっている。 大規模なワイナリーを除いて、こういった施設を持つことはあまり多くのケースがない。 感染予防の観点から現在は試飲を行っていないとのことだが、本来であれば試飲用のボトルが立ち並ぶ。 「山﨑ワイナリーではワインの販売量に関して、7割を直販、2割をインターネット販売、1割を酒販店卸で割り振りをしています。 最も楽な方法は全量を酒販店へ卸すことですが、観光モデルを作っていく中で、ワイナリーでワインを販売することの価値を重く見ています。また、6年前になりますが音楽フェスも開催しました。ワイナリーの裏手にステージがあるのです。道内のイベント企画会社、芸能プロダクションと協力し、延べ1200人を動員しました。少し離れた大型ショッピングモールの駐車場を借りて、ワイナリーとの間をシャトルバスに往復してもらって。」   観光地としての発展にはやはり交通機関が欠かせないが、周辺状況はなかなか厳しい。 1時間に1度停車する各駅停車を擁する無人の峰延駅の前には、タクシープール3つ分の罅割れたアスファルトが広がる。...

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カーヴドリラックスが造り手のホンネに迫る?質問状

トップ>カーヴドリラックスが造り手のホンネに迫る?質問状 カーヴドリラックスが造り手のホンネに迫る?質問状 我々カーヴドリラックスが、国産ワインの生産者の取材を始めるにあたり、生産者の実像に迫るべく用意した「質問状」があります。 生産者の人間像に迫る「造り手」編と、マジメにワインの造り方を根掘り葉掘り尋ねる「栽培・醸造編」。 生産者の熱量がすごいのと、文字ばかりで読みずらいところもありますが、他では目にしない生産者の素顔が垣間見ることが出来るかと思います。 多分。 是非ご一読下さい。 今後も取材を続けるたびに、回答が積み重なっていきます。 ブックマークをお忘れなく。   【質問状】 造り手編   Q1. 好きな映画、本、音楽は? 好きなアーティストをお教え下さい。 Q2. 今までにあった人生転機になったような事柄はありましたか? Q3. 自分自身をワインで例えると、どんな感じでしょうか?(品種、味わいなど) Q4. 小さい頃の夢はなんでしたか? Q5. 自分自身が大切にしている事を教えてください。 Q6. 休暇はどのように過ごされてますか? Q7. 絶対に食べたくない食べ物はありますか?理由もお聞かせ下さい。 Q8. お酒を飲んだ後の〆ご飯を教えて下さい。 Q9....

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カーヴドリラックスが造り手のホンネに迫る?質問状

トップ>カーヴドリラックスが造り手のホンネに迫る?質問状 カーヴドリラックスが造り手のホンネに迫る?質問状 我々カーヴドリラックスが、国産ワインの生産者の取材を始めるにあたり、生産者の実像に迫るべく用意した「質問状」があります。 生産者の人間像に迫る「造り手」編と、マジメにワインの造り方を根掘り葉掘り尋ねる「栽培・醸造編」。 生産者の熱量がすごいのと、文字ばかりで読みずらいところもありますが、他では目にしない生産者の素顔が垣間見ることが出来るかと思います。 多分。 是非ご一読下さい。 今後も取材を続けるたびに、回答が積み重なっていきます。 ブックマークをお忘れなく。   【質問状】 造り手編   Q1. 好きな映画、本、音楽は? 好きなアーティストをお教え下さい。 Q2. 今までにあった人生転機になったような事柄はありましたか? Q3. 自分自身をワインで例えると、どんな感じでしょうか?(品種、味わいなど) Q4. 小さい頃の夢はなんでしたか? Q5. 自分自身が大切にしている事を教えてください。 Q6. 休暇はどのように過ごされてますか? Q7. 絶対に食べたくない食べ物はありますか?理由もお聞かせ下さい。 Q8. お酒を飲んだ後の〆ご飯を教えて下さい。 Q9....

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関東地方のワイナリー

  関東地方のワイナリー 1都6県の関東地方の中で、最もワイン生産量が多いのが栃木県です。ココファーム&ワイナリーが良く知られていますが、それ以外にも年々ワイナリーが増加しつつあります。茨城県では歴史のある牛久ワイン以外にも、つくば山麓、県北部にも続々とワイナリーが増加中。千葉県でもワイナリー増加の動きが見られます。東京都や神奈川県では街中のアーバンワイナリーが注目を浴びています。東京都内、横浜市、鎌倉市などに出来た身近で訪問しやすいワイナリーたちの存在は、日本ワインの発展の一つの可能性となるのではないでしょうか。まだまだ他県からの原料ぶどうの購入が多いですが、東京都産、神奈川県産のぶどうからのワインも取り組まれています。埼玉県の秩父地区は歴史的に隣接する山梨県と関係が強く甲州から良いワインがつくられています。 関東編 その他弊社取り扱いワイナリー その他の関東地方のワイン

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関東地方のワイナリー

  関東地方のワイナリー 1都6県の関東地方の中で、最もワイン生産量が多いのが栃木県です。ココファーム&ワイナリーが良く知られていますが、それ以外にも年々ワイナリーが増加しつつあります。茨城県では歴史のある牛久ワイン以外にも、つくば山麓、県北部にも続々とワイナリーが増加中。千葉県でもワイナリー増加の動きが見られます。東京都や神奈川県では街中のアーバンワイナリーが注目を浴びています。東京都内、横浜市、鎌倉市などに出来た身近で訪問しやすいワイナリーたちの存在は、日本ワインの発展の一つの可能性となるのではないでしょうか。まだまだ他県からの原料ぶどうの購入が多いですが、東京都産、神奈川県産のぶどうからのワインも取り組まれています。埼玉県の秩父地区は歴史的に隣接する山梨県と関係が強く甲州から良いワインがつくられています。 関東編 その他弊社取り扱いワイナリー その他の関東地方のワイン

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長野のワイナリー

  長野のワイナリー 長野で最も古い産地塩尻では、メルシャン、サントリーの2大メーカーのワイナリーがある他、アルプス、林農園(五一ワイン)、井筒ワインの老舗ワイナリーが揃っています。入手困難で知られる城戸ワイナリーも塩尻にあります。近年は新しいワイナリーも次々に設立されており、メルシャン出身の味村氏が設立しメルロに拘るドメーヌ コーセイなどにも注目が集まっています。最もワイナリーの設立が激しい千曲川沿いは大きく上流部と下流部に分かれますが、東御、上田、小諸を中心とする上流部では、ヴィラデストワイナリー、世界のTOP50ワイナリーに選出されたメルシャンのマリコ・ワイナリーや、マンズワインの心臓部とも言える東山ヴィンヤードと小諸ワイナリー、ワインづくりの学校である千曲川ワインアカデミーを開催するアルカン・ヴィーニュなどが揃います。さらにテール・ド・シエルの様な900mを超える高標高のエリアに畑を構える生産者も登場して注目を集めています。下流部の中心地は高山村と須坂市でしょうか。人気の小布施ワイナリーの畑は実際は高山村にありますし、信州たかやまワイナリーなどがつくるこの村のワインも安定した品質を保っています。須坂の楠ワイナリーなども高品質で注目したい生産者の一つです。それ以外の産地でも、八ヶ岳西麓が5つ目のワインバレーとして動き始めるなど、まだまだ注目を集めそうなのが長野県です。 長野編 その他弊社取り扱いワイナリー シャトー・メルシャン その他の長野のワイン

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長野のワイナリー

  長野のワイナリー 長野で最も古い産地塩尻では、メルシャン、サントリーの2大メーカーのワイナリーがある他、アルプス、林農園(五一ワイン)、井筒ワインの老舗ワイナリーが揃っています。入手困難で知られる城戸ワイナリーも塩尻にあります。近年は新しいワイナリーも次々に設立されており、メルシャン出身の味村氏が設立しメルロに拘るドメーヌ コーセイなどにも注目が集まっています。最もワイナリーの設立が激しい千曲川沿いは大きく上流部と下流部に分かれますが、東御、上田、小諸を中心とする上流部では、ヴィラデストワイナリー、世界のTOP50ワイナリーに選出されたメルシャンのマリコ・ワイナリーや、マンズワインの心臓部とも言える東山ヴィンヤードと小諸ワイナリー、ワインづくりの学校である千曲川ワインアカデミーを開催するアルカン・ヴィーニュなどが揃います。さらにテール・ド・シエルの様な900mを超える高標高のエリアに畑を構える生産者も登場して注目を集めています。下流部の中心地は高山村と須坂市でしょうか。人気の小布施ワイナリーの畑は実際は高山村にありますし、信州たかやまワイナリーなどがつくるこの村のワインも安定した品質を保っています。須坂の楠ワイナリーなども高品質で注目したい生産者の一つです。それ以外の産地でも、八ヶ岳西麓が5つ目のワインバレーとして動き始めるなど、まだまだ注目を集めそうなのが長野県です。 長野編 その他弊社取り扱いワイナリー シャトー・メルシャン その他の長野のワイン

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