楠ワイナリーは、楠茂幸さんが20年間のサラリーマン生活の後、オーストラリアでワイン醸造とブドウ栽培を学び、故郷の長野県須坂に設立したワイナリー。ブドウは草生栽培で育て根域の生物多様性を重視して健康なブドウ栽培を心がけています。

長野県須坂市、千曲川に向かって西向きの扇状地の上に楠わいなりーは位置している。長野といえば、メルロやシャルドネ。 大手酒造メーカーによって、それらの栽培が広く伝搬していた中で、楠さんはアデレードで得た知見を元に自身で地域の最適解を模索した。

一般的な有効積算温度は、植物の生育に有効な最低温度(だいたい10℃)を排除して積算するが、BEDD(:Biologically effective days degrees)
は、最高温度(この場合19℃)を設定して、それ以上の気温を19℃として積算して得られる値。さらに、それは気候、地理的条件、日照時間の長さ、日中の温度範囲、温度-生長、などによって補正される。植物の生長に必要な酵素反応が、差し支えなく起こる温度帯を考慮している指数なのだが、まぁ要するに、人間も暑すぎたら何もしたくなくなるし、寒すぎたら布団から出たくなくなる。というようなお話、のはずである。
グラッド・ストーンという人が、土地における最適品種を導くために導入した指数だそうで、須坂市の値はフランス・ボルドーの値に非常に近い。
楠わいなりーのラインナップの中でも、特徴的な1本がある。「日滝原」と名付けられたそのワインは、セミヨンとソーヴィニヨン・ブランのブレンド。日本ではあまり多く見かけないボルドーブレンドの白ワインだ。

「ずっとワインを勉強していたときに考えていたことがあって、それはどう言ったワインが日本食に合うのか、です。その中で、お寿司とかお刺身とかフレッシュ海産物に合うワインとして到達した結論が、セミヨン、ソーヴィニヨン・ブランのブレンドでした。他にセミヨンを栽培しているところは少ないですし、ソーヴィニヨン・ブランに関しても、比較的早いほうでした。シャルドネやメルロは、既に長野県では確立されていましたから、そう言った自分の好みも(品種選びに)反映されています。」
「基本的には自分の好きなワイン」の品種を選んできたという楠さん。もちろんピノ・ノワールやカベルネ・ソーヴィニヨン、シャルドネなどの品質も出色だが、「日滝原」は、彼の好みと科学的な知見が見事に融合したものとして、非常に印象的だ。果実の円みと凛とした酸、柔硬を併せ持った品質は、その選択の正しさを物語ってくれているように思われる。
自身で土地や葡萄にあった最適解を導く姿勢は、その剪定方法にも顕著に見て取れる。


が、これは土地が痩せて乾燥した地域だからこそ最適なのであって、日本の肥沃な土壌と豊富な水分量では、枝が力強く生育しすぎ、その結果、余計な房ができるなど葡萄の品質に貢献しない。(おおよそ)そう言った考に基づいて、楠さんはスマートダイソンを採用している。芽かきの代わりに、枝を1本ずつ上下に伸ばすことで、各枝のソーシャル・ディスタンスは保たれ、かつ、枝毎の力強さもコントロールできるのだ。
