長野県須坂市にある西舘さんのブドウ畑、屋号はVENTIQUATTRO(ヴェンティクワットロ)。イタリア語で数字の「24」を意味する。イタリアワイン好き×「24」時間(=1日)を大切に、楽しくワインを、という想い×ご自身の苗字である西舘の西(「24」)の掛け合わせにより、この名称を選んだそう。

周りのサポートも得て、2021年に須坂市にある1.8haの広さの新圃場を手に入れた。2年間研修を受けていた佐藤果樹園の佐藤さんから穂木をもらったアリアニコをメインに、モンテプルチアーノやサンジョヴェーゼといったイタリアの黒ブドウ品種に加え、メルロ、カベルネ・ソーヴィニヨン、ピノ・ノワール、シャルドネなどの国際品種も植えている。今後、フィアーノやグレコといったイタリアの白ブドウ品種も栽培したいと考えているそう。

畑は標高600mに位置し、平地に比べて2-3℃低い冷涼な場所だ。西に山を背負っているので、午後は早めに日が沈み涼しくなる。昼夜の寒暖差があることで、酸落ちが緩やかで、骨格がしっかりしたワインに仕上がる。確かに、赤系品種が熟すには午後も日照量や気温が必要だが、昨今の温暖化で須坂市も気温が高くなってきているので、大きな問題はないとのこと。それに、夏場は太陽の軌道が高くなるので、夜7時頃でもまだ明るいようだ。
畑の設計も恩師のアドバイスを受けた。元々9枚の段々畑だった畑は、行政に依頼して整地することに。平地が温まってくると、畑には下からの吹き上げの風が吹く。本来であれば、傾斜のある畑の畝は横にした方が傾斜に逆らわず作業は楽だが、西舘さんは風通しと水はけの良さを考え、畝は縦にすることを選んだ。もちろん、雨水が畑の傾斜地の下に溜まって道路や農地に迷惑がかからないように、明渠も設けている。


整地のために土地を削り始めると、ゴロゴロとした石が出てきた。土地を削る前は、浅間山の火山灰からなる黒ボク土と呼ばれる養分が多い土壌が表土にあったが、土地を削ってでてきたのは、石灰質の多い石が風化してできた、砂と粘土の間のシルトと呼ばれる粒子状の土壌だ。雨が降っても傾斜があるので水が流れてしまい、保湿力もない。黒ボク土を持ってきたり、クローヴァーを植えて窒素分を補強したり、カヴァークロップによる草勢栽培を試みたり、藁で保湿したりして、土壌改良を図っている。

ワイナリー建設に向けて
2021年に植えた木は、3年目の昨年、初収穫が可能となった。現在は、研修先でもあるカンティーナ・リエゾーで委託醸造している。カンティーナ・リエゾーは高山村のワイン特区の認定を受けて設立された経緯があり、特区内で栽培されたブドウで醸造する必要があった。西舘さんが恩師の配慮で栽培を続けている角藤農園の一角は高山村にあるので、委託醸造する上でも問題なかったが、須坂市の畑のブドウは対象外だ。カンティーナ・リエゾーは一般酒造免許に切り替え、西舘さんの畑で育つブドウも醸造できる体制にしてくれたそうで、昨年収穫したブドウも無事醸造してもらうことができた。


「ワイナリーに来ると癒しや安らぎ、憩いを感じてもらえるような場所にしなさい。ワインはあくまでもわき役だ」というのが恩師佐藤さんからの教えだ。雄大な山の景色を一望できる場所で、遠方のお客さんの心を満たしたい。地元のお客さんにも気軽な集いの場として利用してもらいたい。こういう想いが強くなっている。須坂市にはワイン特区の制度はまだないが、幸い、来年には3トン程の収量を見込んでおり、特区導入に向けて動き出すことができそうとのこと。まだまだ西舘さんの歩みは止まらない!