空知は道央の内陸なので、北海道の中でも寒い地域と思われがちですが、有効積算温度で見れば道南よりも温暖で、ワイナリーを造るにあたり、自身も畑を所有しながら、導入したのは海外では一般的と言われる「受託醸造」というスタイルだ。 醸造設備を持たない葡萄農家に、自身のワインを造る環境とノウハウを提供する。

新規ワイナリー立ち上げを志す人々が、10Rでの委託醸造を経て独立をはたしているというのも事実だ。 実際に、我々が北海道で訪問したワイナリーのうち5軒は、“10R卒業生”といったような括りで呼ぶことが出来る生産者だ。そういった卒業生たちのワインや、上幌ワインとしてリリースしている自社ブランドのワインについて、共通するのが自然なワイン造りである。謂わばナチュラルなスタイルを日本に伝えた第一人者とも言える。

「森」はソーヴィニヨン・ブランを中心とする畑。元々アスパラガスの畑だったため、ソーヴィニヨンが植えられる運命であったとの話もあるが、その他にも多くに品種が植えられている。サヴァニャン、グリューナー・フェルトリーナー、オーセロワ、アリゴテ、シュナン・ブラン、ズィゲレーベ(ドイツ交配品種)など、大きく分けて冷涼系品種でること以外ほとんど一貫性のないラインナップだ。

森は草が生え放題で、風通しがすごく悪い。でも、もっと深刻な問題はあの森がウサギの団地になっていること。
「森」のすぐ隣に位置する「風」には、ピノ・ノワールを中心としてガメイや、ムニエ、プール・サールなどが植えられている。
ここでも、ブルースさんの実験的なアプローチが見える。
ブルゴーニュ等であれば、マサル・セレクションの選択肢がありますが、新興産地の日本ではクローンを多く並べるしか選択肢がありません。
畝ごとに植えられた13種類のクローンは、それぞれに成熟度合い、収量、病気への耐性が異なる。 成熟に合わせて各クローンを収穫していく中で、同じピノ・ノワールであってもそれぞれの個性も見えてくるという。新興産地にあって、探求の姿勢を崩さないブルースさん、Japan Vineyard Association の理事でもある彼は、日本における葡萄栽培の可能性を広げることに意欲的だ。

赤はピノ・ノワールで白はソーヴィニヨン・ブラン。
両方とも最初から質的には良いものが取れているのですが、まだ満足できる収量に達していません。あと、ピノ・ノワールはもっと深い味わいにしたいのですが、まだ若木だからやや単調な味わいの果実が採れているだけで、時間の問題だと思います。また、赤にも白にも言えますが、収穫時に畑の場所によって果実の熟度にバラつきがあります。バランスを取ることも重要だけれども、そういったバラつきがあっても良いと思っています。その方がいろいろな味わいがワインの中に現れて面白いと思うんです。

自らを「伝統的なイタリアワイン」に例えるブルースさん。どこか野暮ったいような側面がありながらも、適切なシーンにおいてはそれが見事な美点として作用する。そのような不揃いな味わいという特徴に価値を見出す姿勢も、自然な造りによる不均質を面白いとすると共通の軸を持っているように思われる。
その長いキャリアから鑑みても醸造家として、彼は最早日本有数のベテランであろう。しかし、彼の自然なスタイルを自身の言葉で語るとき、もちろん年季の入った経験による重厚感はヒシヒシと感じるが、それとともに、やけに青臭いロマンチスムがもくもくと漂うのだ。