極甘ワイン『ソーテルヌ(Sauternes)』とは?
極甘ワイン『ソーテルヌ(Sauternes)』とは?

バルサックとの違いも解説

バルサックとの違いも解説

THE CELLAR JOURNAL --- writer : Tomohiro TAKAMARU

甘口ワインの1つである貴腐ワイン。
本記事では世界三大貴腐ワインに名を連ねる『ソーテルヌ』について解説していきます。
多くの人に愛されるまでに至った歴史や伝統に加えて、
ソーテルヌのおすすめワインもご紹介しますのでぜひ最後までご覧ください。
甘口ワインの1つである貴腐ワイン。
本記事では世界三大貴腐ワインに名を連ねる『ソーテルヌ』について解説していきます。
多くの人に愛されるまでに至った歴史や伝統に加えて、
ソーテルヌのおすすめワインもご紹介しますのでぜひ最後までご覧ください。

極甘ワイン『ソーテルヌ(Sauternes)』とは?バルサックとの違いも解説

バルサックとの違いも解説
2024.09.10

1. ソーテルヌとは?

ソーテルヌとは?

ソーテルヌとはフランスのボルドー地方、ソーテルヌ地区で造られる貴腐ワインのことを指します。

詳細や特徴を以下で解説します。

ソーテルヌの産地

ソーテルヌ地区はボルドーの市街地から車で南へ40分ほどの場所にあります。
人手が掛かり、コストも高いソーテルヌの甘口ワインを造るには、ほぼ毎年、気候や労働力という大きな課題を克服して生み出される極上の甘口ワインの産地であり、特殊な気候条件の恩恵を享受しています。

ボトリティス・シネレアという菌が付着したブドウは、水分が蒸発してコンフィ化します。
そのぶどうから造られるワインはまさにネクターのようなねっとりした酒質となり、類まれなるエレガントで神秘的なワインとなります。

栽培地は北東のガロンヌ河、南はランドの松林を境界線とし、ブドウ畑はガロンヌ河の小さな支流であるシロン川の両側に広がっています。
この川こそがボトリティス・シネレア菌を繁殖させるのに必要な朝霧を秋に発生させるのに、なくてはならない存在となっています。

もうひとつ、この地の特徴的な点で年間の通じての降雨量が年平均900ミリで多量かつ不均一に分散し、日照に恵まれた天気の良い日は霧を払い、さらにブドウの糖分を凝縮させて過熟を促進させることを容易にしています。

ソーテルヌのブドウ品種

ソーテルヌのブドウ品種

ソーテルヌの原料となるブドウ品種は、『セミヨン』『ソーヴィニヨン・ブラン』『ミュスカデル』『ソーヴィニヨン・グリ』の4つですが、果皮の薄い品種の方が貴腐化しやすいため、大半のソーテルヌがセミヨン主体で作られています。

『セミヨン』は、単一品種でも長期熟成に向いており、5年~10年以上の熟成を経ると素晴らしいコクのある味わいになります。
トロピカルフルーツのアロマが感じられるのがセミヨンの特徴です。

『ソーヴィニョン・ブラン』はライムやグレープフルーツのような柑橘系にハーブを加えたような香りが特徴で、酸味があり果実味がソフトなのが特徴です。

『ミュスカデル』は単体ではなく、主にブレンド用にアクセントを付ける目的で使用されます。
酸度が低く、ムスクのような花の香りが特徴です。

『ソーヴィニョン・グリ』はソーヴィニョン・ブランのクローン変異であるピンク色をしたブドウで、ニュートラルな香りですが、しっかりとした味わいが得られます。

世界三大貴腐ワインのひとつ

ソーテルヌはハンガリーの『トカイ』、ドイツの『トロッケンベーレンアウスレーゼ』と並んで、世界三大貴腐ワインとして広く愛されています。

ハンガリーの『トカイ』は歴史は古く17世紀の中頃に広まり、ハンガリー国家の歌詞にも歌われている程で、ルイ14世紀に『王のワイン、ワインの王』と呼ばれていました。
ドイツの『トロッケンベーレンアウスレーゼ』はドイツワインの最高等級のワインとして君臨しており、フランス・ソーテルヌの貴腐ワインも甘口ワインの王様と称されています。

自然環境が整わないと生産が出来ない貴腐ワインは世界一原価高なワインと言っても過言ではありません。
貴腐菌なのか?もしくはその他のカビ病なのか?を見極るのが非常に難しいため、熟練した収穫手を雇用しなければなりません。
更に収穫時には貴腐ブドウを粒単位で全て手摘みで摘み取るのが一般的です。
世界最高峰の『シャトー・ディケム』では100ヘクタールに対し140人の労働者を雇い、多い年では10回以上に渡って収穫をしていきます。

更に量が取れない事も希少性や価格高に拍車を掛けており、貴腐菌が繁殖し干しブドウ状態になったブドウから果汁を出すのは難しく、ブドウ樹1本からグラス1杯程度しかワインが造りだせないのです。

2. ソーテルヌとバルサックの違い

ソーテルヌ一帯は明け方の霧と日中の暖かく乾燥した気候、この二つの条件が重なる恵まれた土地ですが、ガロンヌ河の支流にある小さなシロン川の影響が最も大きいと言われています。

シロン川左岸のソーテルヌは牡蠣殻が堆積した石灰質、泥灰岩、粘土を含む砂岩などを基盤に持つ、東側斜面に畑が広がり、この地質は遥か昔ガロンヌ川より運ばれてきた砂利層で覆われいます。
ミネラルを多く含む砂利層に覆われた畑は十分な日照が得られ、日中の太陽熱を夜間まで蓄える事が出来るのです。
またソーテルヌ一帯は水捌けが良く、余計な雨水を逃がします。酷暑の時もブドウは乾燥しません。
ブドウの根は水分と栄養を求めて地中深く、時に10メートルを超える深さまでしっかりと根付いている事でソーテルヌは酸度が低めの力強くボディのあるワインが生まれます。

一方、シロン川左岸のバルザックでは異なり、完全な石灰岩が基盤となった土壌です。
地表は僅かに粘土質を含んだ赤茶色の珪土で覆われていて、ブドウはその地表の痩せた土壌を貫いて石灰岩層に根を張っているのです。
従ってバルザックではソーテルヌより全体的にフレッシュで引き締まった味わいが生み出されます。
こうしたテロワールの特性によって、A.O.C バルザックが設けられています。

3. ソーテルヌの格付け

ソーテルヌの格付け

有名なボルドー・メドック地区の赤ワインの格付けは1855年パリ万国博覧会の開催に際し制定されましたが、同じタイミングで白ワインも格付けをされていて、対象はソーテルヌとバルザック地区の甘口でした。
この事からも、ソーテルヌの甘口ワインの評価が高かったことが伺えます。

特別第1級(1シャトー):プルミエ・クリュ・シュペリュール

シャトー・ディケムは数百年の歴史を誇る、ボルドーでも最も古いシャトーの一つです。
畑の面積は100ヘクタールほどで、生産されるワインは8万本~10万本程度。
これほどまでに世界的に高い評価を受けているのは理由があります。

ディケムは経済的な損失は恐れず、最も良質なワインだけを生産しようという狂信的とも言える執念が存在します。
多くの場合、収穫時期にはディケムに6週間から8週間滞在し、最低でも4回の時期に分けてブドウ畑を廻る150人程度の摘み手のグループによってブドウは粒単位で丹念に手作業で選別し、オークの新樽で3年熟成をした後、瓶詰めされます。

有名な話で1964年のヴィンテージは摘み手が13回にもわたって畑を廻りましたが、不向きとされるブドウを収穫しただけで、結局このヴィンテージでは全く何も生産しませんでした。
品質保持は厳密に行われ、絶対的な補糖拒否、全てオークの新樽使用など、完璧さを維持するために、不作の年は瓶詰めをしない徹底を貫いているスタイルはディケムだけかもしれません。

このような背景もあり、1855年の格付け時には『ディケムを凌ぐワインはなく、紛れもない最高級品』と評価をされ、ボルドーワインの中で唯一、第一特別級(プルミエ・クリュ・シュペリエール)という最高位の評価を得ました。

第1級(11シャトー):プルミエ・クリュ(Premiers Crus)

プルミエ・クリュに格付けされたシャトーは、ボンム、プレニャック、バルザック、ファルグのコミューンが含まれていますが、いずれもソーテルヌ&バルザック地区を代表する一流シャトーばかりです。

中でも注目されている筆頭シャトーは、スデュイローです。

フランスで最も影響力のあるワインガイドブック『ル・ギド・メイユール・ヴァン・ド・フランス』2025年度版で、9軒のドメーヌが新たに三ツ星を獲得しましたが、その内の1軒がシャトー・スデュイローです。
ヴィンテージによっては、ディケムに引けを取らない評価を受けているシャトーで今後も注目のシャトーと言えます。

第1級シャトーは下記の通りです。

シャトー・ラ・トゥール・ブランシェ
シャトー・ラフォリ・ペラゲ
シャトー・クロ・オー・ペラゲ
シャトー・ド・レーヌ・ヴィニョー
シャトー・スデュイロー
シャトー・クーテ
シャトー・クリマン
シャトー・ギロー
シャトー・リューセック
シャトー・ラボー・プロミ
シャトー・シガラ・ラボー


第2級(15シャトー):ドゥージエム・クリュ(Deuxièmes Crus)

ドゥジエム・クリュのシャトーも秀逸な生産者が多く、ドワジー・デーヌ、ドワジー・ヴェドリーヌ、フィローなどは安定した味わいで高い評価を受けています。
プルミエ・クリュに比べると価格も下がりますが、掘り出し物も多くワインは優れた味わいばかりです。

第2級シャトーは下記の通りです。

シャトー・ド・ミラ
シャトー・ドワジー・デーヌ
シャトー・ドワジー・デュブロカ
シャトー・ドワジー・ヴェドリーヌ
シャトー・ダルシュ
シャトー・フィロー
シャトー・ブルーステ
シャトー・ネラック
シャトー・カイユ
シャトー・シュオー
シャトー・ド・マル
シャトー・ロメール・デュ・アヨ
シャトー・ロメール
シャトー・ラモット
シャトー・ラモット・ギニャール

4. ソーテルヌを美味しく飲む方法

よく冷やして飲む

甘い味わいのソーテルヌは一般的にしっかりと冷やして飲むことをお勧めします。
温度を下げれば下げるほど、甘みが快適に抑えられて、すっきりとした印象になります。
逆に温度が高い(赤ワインと同じ18度くらい)場合は、甘みが強まります。

ソーテルヌは長期熟成向きのワインです。
ヴィンテージが古いソーテルヌは上質な白ワインと同じように12度くらいが理想ですが、瓶詰めしてまだ間もない若いヴィンテージはしっかりと冷やして飲む方が良いでしょう。

相性の良い食材と合わせる

代表的なマリアージュはブルーチーズとフォアグラです。
ブルーチーズの塩味とソーテルヌは何とも言えない極上のマリアージュになりますし、ソーテルヌが蜂蜜の代わりの役割を果たしてくれます。
フォアグラも濃厚な脂分をソーテルヌが優しく包むイメージで、とてもリッチな味わいが楽しめます。

面白いマリアージュだと、実は和食にも相性◎。
だし巻き卵の甘みに寄り添いますし、クリーミーな湯葉にもよく合います。

5. おすすめのソーテルヌ3選

カルム・ド・リューセック 2020(ハーフ)

カルム・ド・リューセック 2020(ハーフ)

プルミエ・クリュに格付けされている、シャトー・リューセックのセカンドワイン。
2002年がファーストヴィンテージで、畑はシャトー・ディケムの隣に広がります。
セカンドワインと言えど、ファーストラベルのシャトー・リューセックと同じ醸造法で造れており、華やかで優美、そして上品な甘みを感じ、バランスに優れたワインです。

ドメーヌ・バロン・ド・ロートシルト パヴィヨン・デュ・ラック ソーテルヌ 2019(ハーフ)

ドメーヌ・バロン・ド・ロートシルト パヴィヨン・デュ・ラック ソーテルヌ 2019(ハーフ)

フレッシュでエレガントなワインを生み出す、バルザックのブドウを主に採用し、7割をフレンチオーク、3割をステンレスタンクで発酵させます。
テロワールをしっかりと感じる事が出来るワインで、繊細さを感じながらもクリーミーな甘さで長い余韻に包まれます。シャトー・ラフィット・ロートシルトを筆頭としたドメーヌ・バロン・ド・ロートシルト社が手掛けています。

シャトー・ディケム 2020

シャトー・ディケム 2020

世界最高峰に君臨する貴腐ワイン。
誰しもが一度は味わいたいのが、このシャトー・ディケムではないでしょうか?
品質に拘り、厳しい年は生産が行われずこのシャトーほど厳しい選別過程を取り入れているシャトーはないでしょう。
『1本の樹から、僅か1杯しか造ることが出来ない』このシャトー・ディケムは、最低でも15年から20年以上の熟成を経てから飲むことでこのディケムの凄さを感じて頂けると思います。

6. まとめ

古く、甘口のワインは栄養価が高く貴重な存在として、王侯貴族などの特権階級しか飲むことが出来なかったワインです。

現在は時代が変わって甘味製品が簡単に手に入るようになりました。
更には健康志向も重なって甘口ワインを敬遠する傾向になりつつありますが、それでもソーテルヌのワインは世界最高峰の貴腐ワインである事に疑いの余地はなく、食前や食後に少し飲むだけでも食卓を豊かにするワインに間違いはありません。

たまの贅沢に、ソーテルヌの甘口ワインはいかがでしょうか。

※当サイトの内容、テキスト、画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。また、まとめサイト等への引用を厳禁いたします。
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高丸智天

ガストロノミー “ジョエル・ロブション” シェフソムリエ

【経歴】
1977年 広島県生まれ。
ホテル・レストラン専門学校卒業後、千葉県のホテル内フレンチレストランで10間年勤務したのち
2008年 ガストロノミー “ジョエル・ロブション” 入社
2012年 同店 プルミエソムリエ就任
2016年 同店 シェフソムリエ就任
2023年 テタンジェ社よりシャンパーニュ騎士団 シュヴァリエ 叙任
現在に至る

ミシュランガイド17年連続三ツ星「ガストロノミー “ジョエル・ロブション”」シェフソムリエ。シャトーレストランにストックする3,000種類 25,000本のワインを熟知し、お客様に最適な1本を提案している。また、料理とワインのマリアージュには定評があり、多くの人から高い支持を得ている。

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