イタリアのお酒「グラッパ」の楽しみ方とは?

主な種類やブランデーとの違いも紹介

THE CELLAR JOURNAL --- writer : Tomohiro Takamaru

『グラッパ』というお酒を知っていますか?
名前を聞いたことがあっても、詳しく知らないという方も多いのではないでしょうか。グラッパはイタリアを代表するお酒で日本ではあまり知られていませんが、世界中の多くの人に愛されています。
ストレートで飲むだけでなくカクテルにしてみたり…と、さまざまな飲み方が楽しめるお酒です。
本記事ではグラッパの特徴や歴史、おすすめの飲み方について詳しく解説していきます。

イタリアのお酒「グラッパ」の楽しみ方とは?主な種類やブランデーとの違いも紹介

主な種類やブランデーとの違いも紹介
2024.06.24

1. グラッパとは

グラッパとは

『グラッパ』はイタリアで造られるブドウを原料とする蒸留酒です。

グラッパの特徴は製造方法にあり、ブドウの搾りかすを蒸留して造ります。
ワインの果汁を絞った後、大量に残る搾りかす(果皮・種)を何か生かせないかという事で、当初はオイル漬けにして保管していたりしたそうですが、蒸留する事で風味豊かなお酒が造られるようになりました。

グラッパとして認められるためには2つのポイントがあります。

①イタリアで造られていること
グラッパはイタリア全土で造られていますが、特にヴェネチア北西にある「バッサーノ・デル・グラッパ」という町が有名です。
各地でグラッパによる町興しが盛んに行われていますが、グラッパもイタリアのワイン法に守られているお酒のため、造ることのできる地域は限られています。

②ブドウの搾りかすのみから造られること
『果実を原料とする蒸留酒』という意味ではグラッパも”ブランデー”のカテゴリーに分類されます。
ブランデーとグラッパの違いは原料ブドウの「状態」です。グラッパはブドウの”搾りかす”から造らなければなりません。
フランスにもグラッパと同じくブドウの搾りかすから造られる蒸留酒『マール』がありますが、イタリアで製造されていないため『グラッパ』と呼ばれることはありません。EUワイン法の規定により、原料や製造過程が同じであっても、イタリア以外で造られたものを『グラッパ』と呼ぶことはできないのです。

グラッパには「ピュアな搾りかすで造る」という定義があるため、当然ながら水分や糖分を加える事は許されていません。蒸留方法もしっかり定められているブランデーとは違い、グラッパは造り手によって蒸留方法が異なります。最低アルコール度数37.5度以上と規定されており、グラッパの多くは40~45度と比較的アルコール度数の高いお酒です。生産者も様々な手法で生産をするため、アルコール度数が38度~60度の物まで幅広く存在します。
美味しい食事でお腹いっぱいになった後に時間をかけながら少量のグラッパを楽しむがイタリア流。高いアルコールには胃液の分泌を促してくれる働きがあり、消化を助ける効果が期待されます。

ブランデーとの違い

ブドウなど果実から造られる蒸留酒に『ブランデー』があります。
「ブドウ、リンゴ、サクランボ、洋ナシなど果物を原料とする蒸留酒」という括りではグラッパもブランデーの一種に分類されますが、何の果実を使うかで呼び方が変わるのもブランデーの面白さです。

グラッパとブランデーの違いは、原料として使用するブドウの状態の違いです。
どちらも「ブドウを原料として造られる蒸留酒」という共通点がありますが、『果汁を使う』か『搾りかすを使う』かで呼ばれ方が変わります。

ブランデーは主に白ブドウの果汁のみを原料に造られます。
そこから発酵・蒸留し、一般的には木樽で長期熟成を行います。
一方、グラッパは白ブドウだけではなく黒ブドウからも造られ、ブドウの搾りかすが原料になるため果汁以外にも皮や種が含まれているのも特徴ですね。

グラッパの長い歴史

グラッパがいつから飲まれているのかは定かではありませんが、
蒸留酒の起源は、メソポタミア文明の時代まで遡ることができます。

文献によると、10世紀にはすでにヨーロッパで一定の人気を集めていたグラッパ。
原料がブドウの搾りかすであるため「貧しい人のお酒」とも呼ばれ、かつてはアラブ人だけが知る秘密の蒸留技術でした。
これをアラブ人がイタリア南部の修道院に持ち込み、醸造の技術の改良が行われたという説もあるそうです。

イタリアでのグラッパの始まりは、上流階級の人々がワインを楽しんでいたのに対して、庶民もワインを飲みたいとの思いから、
ワインを造る過程で排出されるブドウの搾りかすに水を加え蒸留して造られた「ヴィネッロ」だと言われています。
かつて庶民のお酒としてイタリアで親しまれていたグラッパですが、
現在はブランデーと同じように世界中で愛飲される蒸留酒になっています。

2. グラッパの種類

グラッパの種類

グラッパには、大きく2つの種類があります。
グラッパの種類を分ける要素は『熟成方法』と『熟成期間』にあるのですが、
見た目ですぐわかるのは、透明か琥珀色かです。

一般的に若いグラッパの熟成にはステンレスタンクやガラスが用いられ、色は透明。
スッキリとした味わいとシャープな印象を持ちます。
一方、木樽を用いて造る熟成型のグラッパの色は琥珀色。マイルドでリッチな味わいが楽しめます。

透明なグラッパ

最もポピュラーなのは『ビアンカ』と呼ばれる透明なグラッパです。

蒸留後すぐにガラス瓶やステンレス製のタンクに詰め、6カ月程度熟成します。
後味はスッキリとし、フレッシュな味わいが特徴的です。
アルコールやボリューム感はやや強めの印象で、
ジンやラムなどのスピリッツに近い味わいを持ち、余韻にはブドウの風味を感じます。

琥珀色のグラッパ

蒸留した後で木樽で長期間熟成させたグラッパは
「リゼルヴァ」「ストラヴェッキア」と呼ばれ、琥珀色となります。

透明で若さ溢れるビアンカに比べると、味わいはまろやかでフルーティーな香りが印象的です。
また、ブランデーを思わせる華やかさを持ち、オーク樽で熟成させた場合には、樽由来のヴァニラやナッツなどの複雑なアロマを感じます。

同じアルコール度数でも、透明のグラッパよりも琥珀色をしたグラッパの方がアルコール分が穏やかな印象があります。
原料であるブドウが持つフルーティな香りと味わいに樽由来のウッディな要素が加わり、複雑な味わいが楽しめます。

3. グラッパの楽しみ方

グラッパの楽しみ方

イタリアの国民的なお酒であるグラッパを、本場イタリアの人々はどのように楽しんでいるのでしょうか?

グラッパは食事の後に楽しまれることが多いお酒です。
高いアルコールには消化と吸収を促す作用があり、グラッパを飲むと食後の満腹感が和らげるとも言われています。
油分が多くこってりとしたお肉料理を食べた後に飲むのがおすすめです。

透明タイプのグラッパ・ビアンカは小さいチューリュップ型のグラスが好ましく、
温度帯も10度前後でやや低めの方が芳しいアロマとすっきりとした味わいが引き立ちます。
一方、樽熟成させた琥珀色のグラッパは大きめのバルーングラスを用いて、
温度帯は高めの16度~20度くらいが適温です。複雑なアロマとマイルドな口当たりを楽しみたいですね。

王道の楽しみ方は「ストレート」

グラッパのスタンダードな楽しみ方はそのままをストレートで飲むこと。原料ブドウの繊細なアロマを楽しめます。
本場のイタリアでは、食後に少量のグラッパをゆっくり楽しむことが一般的です。
チューリップ型で専用のグラッパグラスを使うと、グラッパ特有のフルーティな香りをより一層堪能できます。

日本だとお酒は料理と一緒に頂く食中酒という感覚が強く、食後酒という習慣自体に馴染みが少ないかも知れませんが、
食後に王道の飲み方としてストレートでグラッパを愉しむことは、何ともリッチな食後感を得られると思います。

エスプレッソを混ぜた「カフェ・コレット」

グラッパと同じくイタリアを代表する飲み物であるエスプレッソにグラッパを混ぜたものが『カフェ・コレット』です。
いわば、グラッパを使用したカクテルですね。エスプレッソに砂糖を加えて、グラッパを混ぜると完成です。

エスプレッソにグラッパのブドウの香りが漂い、リラックス効果があります。
イタリアのリストランテでは食後の1杯として提供される事も多いカフェ・コレット。
オレンジピールを加えて飲むお洒落な飲み方もお勧めです。

ジンジャーエールで割る「グラッパ・ジンジャー」

その名の通り、グラッパをジンジャエールで割ったもの。
アルコール度数が高いグラッパをストレートでは飲みにくいと感じる人におすすめの飲み方です。

グラッパとジンジャエールの割合に決まりはなく、自分好みに調節して楽しむことができます。
「グラッパ1: ジンジャエール3」くらいから始めてみると良いかもしません。
用いるジンジャエールはスパイシーさのある、辛口タイプがおすすめです。
グラッパが放つブドウ本来の芳醇なアロマと辛口ジンジャエールが織りなす辛口でスパイシーでテイストは
双方の魅力を高めてくれます。

ソーダ割り

グラッパをソーダで割るとハイボールのようなスッキリとした味わいを楽しめます。
ストレートで楽しむ場合には食後がおすすめですが、ハイボールは食中酒としてお勧めです。
柑橘類との相性も抜群で、レモンを絞ったりレモンピールを添えてお洒落なスタイルでも愉しむことが出来ます。

グラッパソーダはシャンパーニュやワインのような、美しさや繊細さを求めるというよりは、
もっとシンプルで透明感がある飲み方といえます。

4. おすすめのイタリア産ワイン3選

グラッパはイタリアを代表するブドウを原料とする蒸留酒です。
タイプも様々であり、飲み方も色々。
ストレートで食後の余韻に浸るのも良し、何かと割って食中酒としてお洒落に飲むのも良し。
更には休日のブランチ後にグラッパをアイスティーで割ったカクテルはのんびりと過ごす休日にぴったりです。

多種多様なタイプを生み出すイタリアはグラッパ以外にも多くのお酒を生産しており、ワインも種類が豊富です。
イタリアのお酒に興味をお持ちいただけた方へおすすめのイタリア産ワインを3本紹介いたします。

アル・エ・ディレ ピノ・グリージョ 2019

アル・エ・ディレ ピノ・グリージョ 2019

自然農法で収穫したピノ・グリージョをコールド・マセレーションで醸造。花びらを感じるふわっとしたアロマ、ピノグリージョならではの甘みを感じるほどの豊かな果実味で透明でピュアなフルーツとシトラス系の酸、研ぎ澄まされたミネラル感のバランスが見事です。
このピノ・グリージョという品種の特徴は何と言っても香りの豊かさで、オレンジなどの甘みと強い柑橘系のアロマに加え、熟した洋ナシや爽やかなハーブの香りを連想させてくれ、若いうちから非常に複雑で様々な香りの構成要素を持つ品種で、果実味と酸味のバランスにも優れた仕上がりです。

コルテ・アダミ ソアーヴェ 2022

コルテ・アダミ ソアーヴェ 2022

イタリアのヴェネト州で造られた白ワイン。リンゴや柑橘系の香りとグリーンノートがあり、ブドウの熟度を感じさせるほどよい凝縮感と余韻も長くコストパフォーマンスが非常に高いワイン。
イタリアの白ワインと言えばこのヴェネト州のソアーヴェが最も有名ではないでしょうか。フレンドリーさを感じ、フレッシュ感と繊細な味わいを伴い、熟成を待たずとも早飲み出来るワインとしてポテンシャルも高い産地です。このエリアの主要品種となるガルガーネガ種は少なくとも1000年以上前からソアーヴェの丘陵地帯で栽培されており、イタリアで最も古いブドウ品種のひとつです。

チェレット アルネイス・ブランジェ 2022

チェレット アルネイス・ブランジェ 2022

ビオロジック農法で造られる自社畑のブドウを使用し、ステンレスタンクで発酵、熟成したワイン。
イタリアの白ワインの歴史を変えたといわれるほど、上質で白い花のような香り、土壌由来の塩っぽいニュアンスが感じられ、すがすがしい清涼感があります。ピエモンテの方言で「いたずらっ子、へそ曲がり」を意味するアルネイスという品種、一時は撲滅しかけた過去を持ちます。酸が少なく熟しやすい傾向を持ち、そのデリケートさから病気にかかりやすく、とても栽培が難しい品種といわれているのですが、他の品種ではあまり見られないアーモンドやナッツなどの香ばしさを持っており、この品種の個性を上手く表現しているワインです。

5. まとめ

グラッパは、イタリアの国民的なお酒でブドウの搾りかすから造る蒸留酒です。
食後にストレートで楽しむことが一般的とされていますが、カクテルなどアレンジを加えても楽しめます。

アルコール度数の高い食後酒というイメージを持たれやすいのですが、
ストレートだけではなくコーヒーやアイスティーで割ったり、更にはソーダで割って爽やかに愉しむことも出来て、
ありとあらゆる場面で食事との相乗効果を高めてくれるお酒なのです。
何か一緒に食べたいときはティラミスやチョコレート、ヘーゼルナッツやピスタチオが良いでしょう。

ご存知の通りイタリアはワインの種類も豊富です。スプマンテから始まり、赤ワイン・白ワイン、そして甘口まで。
陽気な生産者も多い事から「イタリアワインは飲むと元気になる!」そんなイメージがありますね。
グラッパに限らず、イタリア産のワインを飲み比べてみたい方はぜひTHE CELLAR online storeへお越しください!

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高丸智天 氏

ガストロノミー “ジョエル・ロブション”
シェフソムリエ 高丸智天 (Tomohiro TAKAMARU)

【経歴】
1977年 広島県生まれ。
ホテル・レストラン専門学校卒業後、千葉県のホテル内フレンチレストランで10間年勤務したのち
2008年 ガストロノミー “ジョエル・ロブション” 入社
2012年 同店 プルミエソムリエ就任
2016年 同店 シェフソムリエ就任
2023年 テタンジェ社よりシャンパーニュ騎士団 シュヴァリエ 叙任
現在に至る

ミシュランガイド17年連続三ツ星「ガストロノミー “ジョエル・ロブション”」シェフソムリエ。シャトーレストランにストックする3,000種類 25,000本のワインを熟知し、お客様に最適な1本を提案している。また、料理とワインのマリアージュには定評があり、多くの人から高い支持を得ている。