日本ワインコラム |北海道・登町 ランセッカ
北海道に生まれ仁木町の果樹農家に育ち、将来的には北海道大学卒業という、道民の手本と言って差し支えないような人格形成期を過ごしたLan Seqqua の山川惇太郎さん。 東京で自転車競技のアスリートとして10年間のキャリアを過ごしたのち、2015年余市に戻ってきた。
ドメーヌ・モンの山中さんといい、余市でワイン造りをやる名門校出身者が、学歴を反故にしてスポーツに走る傾向とはいったいなんなのだろう。 同地にて、自然農法による果樹栽培をはじめとした農業を営み、ドメーヌ・タカヒコにも葡萄を供給していた奥様がきっかけとなり、曽我貴彦さんの元での研修を開始した。
昔、曽我さんのところ(ドメーヌ・タカヒコ)に「ヨイチ ノボリ コハル」というワインがあったのですが、その葡萄を造っていたのが私の妻でした。 ドメーヌ・モンの山中さんが曽我さんのドメーヌでの研修を終える段階で誘われまして、面白そうだと思い研修に行くことにしました。
2018年に研修を終え、ドメーヌ・モンの向かい側に当たる西向き斜面の圃場を取得。同年より道内のワイナリーでの更なる研修を重ねながら、ツヴァイゲルト、ピノノワール、ガメイなどの葡萄を植樹した。 夕日が長く葡萄の糖度が上がりやすいと言われる西向き斜面、山肌を削って開墾された畑と、もとは果樹が植えられていた肥沃な畑の2つのエリアからなる。そんな優れた立地で、山川さんが目指すワインは非常にシンプルな言葉によって語られる。
わかりやすい赤ワインを造りたいと思っています。ムンクやモナ・リザのようなワインではなくて、風景画のようなワインを造りたいです。
元々「ワインオタク」ではなく、むしろビール党だったという山川さん。
説明が困難な感情表現を溢れさせるようなありかたや、斬新な構成要素から多くの「謎」を伴い研究者の熱い視線を集めてきたようなありかた、そういった複雑さからは遠ざかった、味がはっきりとした誰にでも理解可能なワインといったところだろうか。
品種の(最大限の)表現とか、究極の味とかを求めているわけではないんですよね。そういう意味では志が低いねって、言われちゃうかもしれないですけど。
「ワインは思想を...」と、滔々と語り、風土を反映した繊細で複雑なピノノワールを作る男を師に持つことを思うと、やや反逆的にも捉えられる言葉のようにも聞こえる。また、その師のワイン造りを少なからず受け継ぐ中で、山川さんがどのような「わかりやすさ」を目指すのかは、少々想像し難い。
2020年に酒造免許を得た Lan Seqquaでは 、植樹より2年しか経っていなかった自社農園からワインを造ることができなかったため、農家から仕入れたナイアガラや、キャンベルアーリー、ポートランドを使用して、微発泡ワイン(ペットナット)を醸造した。 そんなワインの商品説明文にはこんな文言が記されている。
" 長く置いておいて良くなるタイプのワインではありません。お早めにお飲み下さい。" それに呼応するようなかたちで、赤ワインについても同じような言葉が付け足される。
" 熟成によって複雑味を増すようなワインより、最初からわかりやすい赤ワインを造りたいと思っています。時間がかかるデメリットや、ワインとしてのわかりづらくなることは避けたいのです。"
私たちがよく用いる意味での「わかりやすいワイン」は、明瞭な果実味を伴った、悪く言えば大量生産品を思わせるようなものだ。 しかし、日本で、小規模で、自然な造りでそれを実現するということは、やはり考えにくい。むしろ、もしそれを思わせる「わかりやすさ」であったら、逆に大したものである。
山川さんが余市で導き出す「わかりやすい」味わいへの回答がどのようなものになるのか。 日本ワイン的でありながら、明瞭なスタイルの赤ワインが生まれるとしたら、それは大変志の高いワイン造りであるように思われる。
今から、彼の葡萄による赤ワインのリリースが楽しみでならない。加えて、20万本くらいの大量生産であったらそれまたすごいが、そこに期待はしないでおく。
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