2021.07.20 更新

北海道・登町 ランセッカ

北海道・登町 ランセッカ

Lan Seqqua

山川 惇太郎 氏

余市で導き出す「わかりやすい」味わい。それは大変志の高いワイン造り。


日本ワインコラム |北海道・登町 ランセッカ

北海道に生まれ仁木町の果樹農家に育ち、将来的には北海道大学卒業という、道民の手本と言って差し支えないような人格形成期を過ごしたLan Seqqua の山川惇太郎さん。 東京で自転車競技のアスリートとして10年間のキャリアを過ごしたのち、2015年余市に戻ってきた。

ツヴァイルト、ガメイ、ピノノワールが植樹されている。 ▲ ツヴァイルト、ガメイ、ピノノワールが植樹されている。

ドメーヌ・モンの山中さんといい、余市でワイン造りをやる名門校出身者が、学歴を反故にしてスポーツに走る傾向とはいったいなんなのだろう。 同地にて、自然農法による果樹栽培をはじめとした農業を営み、ドメーヌ・タカヒコにも葡萄を供給していた奥様がきっかけとなり、曽我貴彦さんの元での研修を開始した。

農作業用機械などを収める小屋は、山川さんが一から作り上げたものだ。 ▲ 農作業用機械などを収める小屋は、山川さんが一から作り上げたものだ。

昔、曽我さんのところ(ドメーヌ・タカヒコ)に「ヨイチ ノボリ コハル」というワインがあったのですが、その葡萄を造っていたのが私の妻でした。 ドメーヌ・モンの山中さんが曽我さんのドメーヌでの研修を終える段階で誘われまして、面白そうだと思い研修に行くことにしました。

2018年に研修を終え、ドメーヌ・モンの向かい側に当たる西向き斜面の圃場を取得。同年より道内のワイナリーでの更なる研修を重ねながら、ツヴァイゲルト、ピノノワール、ガメイなどの葡萄を植樹した。 夕日が長く葡萄の糖度が上がりやすいと言われる西向き斜面、山肌を削って開墾された畑と、もとは果樹が植えられていた肥沃な畑の2つのエリアからなる。そんな優れた立地で、山川さんが目指すワインは非常にシンプルな言葉によって語られる。

前所有者の農家さんから引き継いだ石積みの倉を改装、増築して醸造施設として使用している。 ▲ 前所有者の農家さんから引き継いだ石積みの倉を改装、増築して醸造施設として使用している。

わかりやすい赤ワインを造りたいと思っています。ムンクやモナ・リザのようなワインではなくて、風景画のようなワインを造りたいです。

元々「ワインオタク」ではなく、むしろビール党だったという山川さん。
説明が困難な感情表現を溢れさせるようなありかたや、斬新な構成要素から多くの「謎」を伴い研究者の熱い視線を集めてきたようなありかた、そういった複雑さからは遠ざかった、味がはっきりとした誰にでも理解可能なワインといったところだろうか。

Lan Seqquaの当主 山川 惇太郎 さん ▲ Lan Seqquaの当主 山川 惇太郎 さん

品種の(最大限の)表現とか、究極の味とかを求めているわけではないんですよね。そういう意味では志が低いねって、言われちゃうかもしれないですけど。

「ワインは思想を...」と、滔々と語り、風土を反映した繊細で複雑なピノノワールを作る男を師に持つことを思うと、やや反逆的にも捉えられる言葉のようにも聞こえる。また、その師のワイン造りを少なからず受け継ぐ中で、山川さんがどのような「わかりやすさ」を目指すのかは、少々想像し難い。

2020年に酒造免許を得た Lan Seqquaでは 、植樹より2年しか経っていなかった自社農園からワインを造ることができなかったため、農家から仕入れたナイアガラや、キャンベルアーリー、ポートランドを使用して、微発泡ワイン(ペットナット)を醸造した。 そんなワインの商品説明文にはこんな文言が記されている。

ワイナリーの中には、ドメーヌ・タカヒコを思わせるプラスティック製のタンクなど総規模の醸造器材が、それぞれ移動可能な形で配置されている。 ▲ ワイナリーの中には、ドメーヌ・タカヒコを思わせるプラスティック製のタンクなど総規模の醸造器材が、それぞれ移動可能な形で配置されている。

" 長く置いておいて良くなるタイプのワインではありません。お早めにお飲み下さい。" それに呼応するようなかたちで、赤ワインについても同じような言葉が付け足される。

石倉の増築部分(写真は改築中のもの)。器材小屋に加えて、自身で建築まで手掛ける山川さんのタフネスを感じる。 ▲ 石倉の増築部分(写真は改築中のもの)。器材小屋に加えて、自身で建築まで手掛ける山川さんのタフネスを感じる。

" 熟成によって複雑味を増すようなワインより、最初からわかりやすい赤ワインを造りたいと思っています。時間がかかるデメリットや、ワインとしてのわかりづらくなることは避けたいのです。"

北に余市市街地を望む西向き斜面の自社圃場。斜面上部は山肌を削って開墾されたエリア。まだ若木のエリアであるため、青々とはしていない。 ▲北に余市市街地を望む西向き斜面の自社圃場。斜面上部は山肌を削って開墾されたエリア。まだ若木のエリアであるため、青々とはしていない。

私たちがよく用いる意味での「わかりやすいワイン」は、明瞭な果実味を伴った、悪く言えば大量生産品を思わせるようなものだ。 しかし、日本で、小規模で、自然な造りでそれを実現するということは、やはり考えにくい。むしろ、もしそれを思わせる「わかりやすさ」であったら、逆に大したものである。

山川さんが余市で導き出す「わかりやすい」味わいへの回答がどのようなものになるのか。 日本ワイン的でありながら、明瞭なスタイルの赤ワインが生まれるとしたら、それは大変志の高いワイン造りであるように思われる。

今から、彼の葡萄による赤ワインのリリースが楽しみでならない。加えて、20万本くらいの大量生産であったらそれまたすごいが、そこに期待はしないでおく。

Interviewer : 人見  /  Writer : 山崎  /  訪問日 : 2021年7月20日

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