長野県は首都圏からのアクセスがいい。行政も誘致に積極的で、周りの農家達の風通しも良かった。千曲川ワインバレーは、日本有数の日照時間を誇り、降雨量が少なく、標高が高さによる昼夜の寒暖差があり、ブドウ栽培に恵まれた土地だ。ワイナリーの多くは右岸側にある。左岸よりも更に標高が高く、火山性の黒ボク土を土壌とするところが多い。
蓼科山の地下水+強粘土質土壌+寒暖差という好条件が揃うお米の名産地で、畑の目の前は田んぼが広がる。飯島さんの畑は斜面でお米を作ることができないことから田んぼにならず手付かずで残っていたという。

ワイナリー名の496にはフランス語で自転車を意味する「シクロ」という意味合いが隠されている。実は、飯島さんはもともと自転車競技の選手。個人追い抜き種目のパシュートと呼ばれる競技では、マスターズ部門の世界記録を樹立という経歴の持ち主。しかし、飯島さんは40代後半で全く異なる分野のブドウ栽培&醸造家に転身する。


次は、何かモノを作って、人に喜んでもらいたいという強い思いがあったそうだ。では、何を作るのか?選手時代、海外に遠征に行った時に出されたワインは、「常に楽しい時のわき役」だったという。ワインは幸せの記憶に直結するもの。そして、ワインには「人を繋げる力がある」と言う。
みんなでボトルに入った液体を分け合いながら飲む。ワインの周りには人が集まる。それだけではない。ワインを目的に旅先を選ぶこともあり、ワインを通じた新しい出会いがある。他の農産物で、こんな形で人を結びつけるものはそうはない。ワインで人に喜んでもらいたい、幸せを感じてもらいたい、人との繋がりを大事にしたい。自転車の世界を経験したからこそ見つけられた次の世界だった。

手を加えなくてもそれなりの品質のブドウができるところが「ワイン産地」なのだと仰る。暑いところで育つシャルドネは酸が足りない。かと言って涼しすぎると糖度が上がらない。飯島さんは、日本に於いては、ご自身の畑の場所が酸味と糖度がバランスするギリギリのラインだと分析されている。
逆に、メルロはこの土地にドンピシャだそうだ。
ピノ・ノワールは雨にめっぽう弱い品種で、日本で育てるのは難しい品種だ。その為、果実の周りにレインガードをする農家が多いが、飯島さんはしない。人間が手を加えれば加えるほど、本来、その土地の持つテロワールとは乖離してしまう。人工物で環境を変えるのではなく、その土地ならではのブドウそのものの力を活かしたいと考えているそうだ。
異なる品種であっても、それぞれ高い品質のブドウが育つ。この土地のポテンシャルの高さが伺われる。
イメージはスマート・フォーマル。あまりカジュアルに着崩さず、フォーマルな着こなしができるほど品質のよいブドウがあるからこそ、醸造過程ではあまり手を加えすぎないことを意識しているそうだ。
ポテンシャルの低いブドウをスマート(培養酵母を使用して発酵初期からサッカロマイセス優位)に醸造すると、香りや味わいに深みがなく、淡泊になりがちだと飯島さんは言う。だから、テロワールの良さを誇れるほど高品質なブドウを育てることに注力し、ブドウ本来の味わいを伝えるスマートな醸造にこだわっておられるのだ。
