
今までは「モンペ」、「モンシー」、「カストゥグラン」、「ドングリ」の4銘柄のみのリリースであったが、醸造蔵の隣に熟成庫(樽庫)が完成したことで、新たなラインナップを追加することが可能となった。2020年からは買い葡萄を増やし、今までにない品種を山中さんのスタイルで醸造している。新たな葡萄品種には、メルロー、ピノノワールという意外な顔触れがチョイスされている。

植樹をした自根のピノグリも、将来新しく加わるであろうラインナップの一つだ。副梢や花振るいが出やすく収量の面では繊細な特性を持っている自根の圃場だが、非常に小さい果実が結実するとのことで、その味わいには山中さん自身大きな期待を寄せている。

北海道余市登町。
長く果樹栽培の歴史を持ち、ワインの新興産地としても注目が集まる土地だ。海沿いの中心街から内陸へ向かう国道を、小さな谷間に沿った脇道へ逸れ、鬱蒼と視界を遮る雑木林が途切れ景色が開けた先に、ドメーヌ・モンはある。そこだけ切り取ればヨーロッパのワイン産地のようにも見える景勝だ。元々は15年ものあいだ手つかずで、暗い森林と化していた3haの耕作放棄地。山中さんは、チェーンソー一本で、そんな土地を陽の光にあふれる葡萄畑へと造り替えた。

1.5haの自社畑はピノ・グリのみが植えられる。雪が多く降り積もる余市ではほとんど採用されることない、長梢剪定で仕立てられたピノ・グリが5,000本斜面上に美しく並ぶ。
「葡萄栽培については北限の土地ですので、有効積算温度から葡萄を絞っていくと、アルザス、ブルゴーニュ系統の品種から選んでいくこととなります。私自身がドメーヌ・タカヒコで研修をしたこともあり、ピノ・ノワールの系統の品種を扱いたいという思いがありました。それで選んだのがピノ・グリです。 高樹齢を目指しているので、長梢剪定で仕立てています。北海道の葡萄栽培における常識は、樹齢20~30年での植え替えですが、この選定方法をとることによってより高樹齢の葡萄を育て続ける可能性が上がります。ブルゴーニュ品種の魅力を引き出すことにもつながるので、敢えての選択です。」

そんな赤でも白でもない「ピノ・グリ」から造る、赤でも白でもない「オレンジワイン」を、山中さんは自身の姿とも重ねあわせる。
「昔から白黒をはっきりとさせたい性格だったのですが、年齢を重ねていくうちに、どこかのバンドの真似ではないですが、グレーゾーンに留まることも楽しいかなと考えるようになりました。」

「もともと(2018年)は曽我さんから頂いたピノ・ノワールの貴腐の搾りかすを、どうにか使いたいと思いまして。ドン・グリに入れようかと思ったのですが、そうするとドメーヌワインでなくなってしまうので、ドメーヌタカヒコのパストゥグランにヒントを得て、ツヴァイゲルトに入れました。もともと花の香りがつくことなどを期待していたのですが、複雑な香りが加わって予想以上にいい出来でした。」
Cassetoutgrains (カストゥグラン) 2019。呆れたことに「搾りかす」と「パストゥグラン」を掛けた、これもまた駄洒落だ。ツヴァイゲルトに、葡萄の搾りかすをリパッソして造られる。2019年はピノ・グリの搾りかすを漬け込んだ。優しく抽出されたツヴァイゲルトは、ピノ・ノワールのような質感。そこに、遅れてピノ・グリのフローラルな香りが浮かび上がってくる。独創性と偶然が生んだ唯一無二の味わいだ。

「余市をワイン産地に。」そう願うことから生まれる「自分に優しく」、「シンプルに」、「安く」というアイディア。
日本有数の産地といわれながらも、栽培農家からドメーヌ元詰めへの転向というアクションが未だ見られない余市の土地で、 山中さんのユルい背中に薫陶を受ける人々が増えていくことを願う。余市産ワインの名前が駄洒落だらけにならない程度に。