「ドメーヌの強みはほぼ全ての畑がヴィエイユ・ヴィーニュという事で、それはまた私たちドメーヌ・デュガ・ピィのシンボルです。」ロイック・デュガ氏
2024.06.21 --- writer Kasahara
- web サイト
- http://www.dugat-py.com/
1. ジュヴレ・シャンベルタン村の概要
コート・ド・ニュイのアペラシオンの中でもヴォーヌ・ロマネと双璧の人気も持つ、ジュヴレ・シャンベルタン。人気もさる事ながら、畑の総面積でもコート・ド・ニュイにある村の中でも最大級、全部で約500ヘクタール以上ある。約70%がヴィラージュ、残りの30%がグラン・クリュとプルミエ・クリュという構成だ。
グラン・クリュはシャンベルタン他、これまたニュイ最多となる9つのグラン・クリュを誇り、プルミエ・クリュもカズティエ、コンブ・オー・モワンヌなど人気畑が名を連ねる。ワインの味わいは土っぽく、硬いタンニンが特徴と言われており、重厚なワインが好きな方が特に好まれるアペラシオンだろう。
さてデュガ・ピィはそんなジュヴレ・シャンベルタン村の中でも長い歴史を持つ名家で、今回案内役をしてくれた現当主ロイック・デュガ氏はなんと13代目だそうだ。
2. ワイナリーの歴史
デュガ家は17世紀初頭からジュヴレ・シャンベルタンのアペラシオンでワイン造りを行ってきたまさに長い歴史を持った名門ドメーヌ。父ベルナール・デュガ氏は12代目にあたり1975年に初めてドメーヌで醸造行った。その後1979年にジョセリーヌと結婚。1994年から旧姓であるPyをデュガに加えた、現在のドメーヌの名称となる「デュガ・ピィ」とする。他にも同じ名称のデュガという名前は沢山居る為、分かるように母方の性を付けて、デュガ・ピィとしたそう。1997年から今回案内をしてくれた13代目となるロイック・デュガは父ベルナールとドメーヌで長い間仕事をしてきた。
「代々仕事を受け継いでいく事は非常に大事なので、長く父と一緒に仕事をしてきた訳です。いわば非常に長い研修みたいなものですね。」
と話すロイック氏の言葉は、まさにドメーヌの長い歴史の重みを感じるには十分なものだった。
「ヴィニュロンの仕事は農業(栽培)学、そしてワイナリー内での醸造学、熟成についての知識・経験、それに加えてドメーヌの経営学も必要で、このように異なる3つの仕事が一緒になっています。」
こう語るロイック氏はその後2015年から父であるベルナール氏よりドメーヌを引き継ぎ、運営にあたっている。
3. 畑の特徴
「現在私たちは16ヘクタールを栽培しています。ビオロジック転換してから20年経過しました。ビオロジックとビオディナミで栽培する事が私たちにとって非常に大切です。ビオディナミについて認証取得は面倒臭い為、していないが実際はビオディナミを実践しています。」
ビオロジック認証については取得済との事だった。また有機栽培と並んで、ドメーヌの大事な哲学がブドウの木の樹齢だ。
「世代交代した時にもちろん私たち若い世代だから持込んだ事もありますが、ドメーヌのDNAはヴィエイユ・ヴィーニュで凝縮したワインである事です。」
と話すロイック氏。この哲学は新しく畑を探す際にも、当然必要条件となっている。1996年からヴォーヌ・ロマネに、2003年にはムルソー、ポマールを、2004年にはシャサーニュ・モンラッシェのモルジョを取得。当然取得した畑は全てヴィエイユ・ヴィーニュだ。ややこしい事にヴィエイユ・ヴィーニュと名乗る事について特に法規制が無いので、念のため、どの程度の樹齢をドメーヌではそう定義しているのかと聞くと、
「(デュガ・ピィでは)35年~50年がヴィエイユ・ヴィーニュ、50年以上はトレ・ヴィエイユ・ヴィーニュとしています。」
との返事。また他のドメーヌでも話が出ていたが、古木の管理はデリケートである事などから馬で畑を耕作しており、現在その面積は2ヘクタール程度あるようだ。手間そしてコストの問題もありその耕作対象グラン・クリュと一部の畑のみで行っているとの事。
「馬を使った耕作の後は、馬の通った道が踏み固まっている為、手作業でつるはしを使って土をかく必要があります。その為の人手も必要となるので大変ですね。」
機械とは違い古木を傷めない馬での耕作は、更にその後に人手のメンテナンスが必要とは、それまた想像を超える大変さである。
4. 醸造の特徴
「自分の好きなスタイルとして実践している事としては、例えば昔と比べると新樽の比率が少なくなっています。醸造も熟成も少しずつ変えています。デュガ・ピィのワインは凝縮感があるというイメージですよね。」
と話すロイック氏。この後の試飲でも体感する事となるが、2022年という非常に暑かったヴィンテージのワインを飲んでも、どれも清涼感やミネラル感があり、非常にエレガントだったという事だ。
「ワイン自体の味わいのバランスが重要で、醸造の時点でバランスの取れた味わいに造れれば、熟成を経てもこのバランスは崩れません。」
と語るのも納得だ。父ベルナール同様、全房発酵の使い方も年によって異なるようだ。
「全房発酵は必ず良いわけでもなく、年によっては難しい事もあります。その為区画ごと、ヴィンテージごとに因ってその比率は変えています。2021年みたいな難しいヴィンテージだと全房発酵は少ししかしません。」
2004年から作っている白ワインの醸造については、
「樽発酵、樽熟成を行っています。低温発酵させる事によって果実味を出しています。通常だと樽の置いている部屋全体を低温にして管理する事もありますが、これは樽ごとに低温管理出来る棒を入れて樽ごとに温度管理をしています。」
また樽ごとに清澄(清澄剤は分析結果に因って変えているとの事)は行うが、フィルターは行わない。白は赤ワインの後に瓶詰し、18ヵ月から20カ月の熟成となるとの事。
5. 2022年~果実味もあり、清涼感も残った素晴らしいヴィンテージ~マゾワイエールに自信有り!
「(ブドウの木が)ヴィエイユ・ヴィーニュで、且つビオロジックで栽培している事から、ブドウの生育が遅くから始まるのですが、シーズン後半になるとその生育サイクルが早くなり、あっという間に他の畑に追いついて成長をし、収穫時期には自分達が一番早く収穫を行っています。その為(ブドウが暑い年でも過熟にならないから)ワインのバランスが取れます。早く収穫する事になるのは、ヴィエイユ・ヴィーニュだと房自体も小さく、ミルランダージュ(結実不良)も多く見られて実も小さい事から早くブドウが熟します。自分達はアルコール度数で13.5を超えるようなワインは好みません。12.8~13.5位のアルコール度数で収まるのが良いですね。」
2022年のテイスティングがスタートした。
ショレイ・レ・ボーヌ
「最初はショレイ・レ・ボーヌから試飲しましょう。2016年に取得した畑です。樹齢は90年で、その為取得しました。ブルゴーニュというと、グラン・クリュばかりイメージを持たれますが、ヴィエイユ・ヴィーニュの畑をきっちりと選べば、(グラン・クリュでなくても)良いワインになるんです。それにコスト・パフォーマンスも良いですよね。試飲して頂くと分かると思いますが、ショレイは素晴らしい土地でした。取得してワインを造ってみて、非常に満足をしています。畑の場所も良い所にあります、ショレイの中でも一番良いと言われているボーモンの畑の隣で、ラトーという区画です。」
とにかく、驚いたのはミネラルと果実味のバランスが非常に良かった事だ。試飲したワインは抜栓してから2日間経っていると説明を受けたが、まったくバランスを失っておらず果実味と酸に均整がある。
ポマール・ヴォーミュリアン
「次はポマール・ヴォーミュリアンです。リュジアンの畑の近くですが、ヴィラージュのワインです2019年にボーヌにあったアメリカ人が経営する“ニューマン”というワイナリーが、止める事になった時にドメーヌごと買収をしました。畑をそのまま引き継ぎました。このヴォーミュリアンとボーヌの畑の樹齢は75年です。」
これまた果実味たっぷりで少し野暮ったさを感じるようなワインとは一線を画しており、よりエレガントなスタイルに仕上がっている。そこでふと、疑問に思ったのが、ミネラルという表現をする事はほとんどない。
アペラシオンの2つに、共通するミネラル感があるという事。この疑問を投げかけると
「確かに共通してミネラル感がありますが、これはビオロジックの畑で5年以上経過すると特徴として感じるようになります。暑い年でも清涼感がワインから感じられるのは信じられないですよね。(ミネラル感が)どの程度あるか分析する事は出来ないのですが、10年後に試飲してもやはりミネラル感が残って感じられます。現在畑を購入してから(ビオに転換して)4年程経ってこのミネラル感が感じられるようになりました。」
と補足をしてくれた。なるほど、確かに土壌に関わらずヴィエイユ・ヴィーニュになると、複雑味の中にミネラルの要素が入って来ると感じる事があるが、ヴィエイユ・ヴィーニュの達人が言うのだから説得力がある。ちなみにビオ転換してから3年とかだと未だそのニュアンスを感じとる事が出来ないそう、本当にブドウの木の力は不思議で且つ偉大なものだ。
ジュヴレ・シャンベルタン クール・ロワ
「次はジュヴレ・シャンベルタン クール・ロワです。ドメーヌで一番有名なワインですね!家族の歴史に関係する畑だからです。3ヘクタールあって、全てがヴィエイユ・ヴィーニュ、樹齢60年~115年で、平均で75年です。(フィロキセラの直後に植えたブドウの木がそのまま残っています。)曽祖父と祖父が苗業者だった事もあり、当時自分達で接ぎ木をしたので、非常に良い状態でヴィエイユ・ヴィーニュが残っています。」
さて、ご紹介にもあった通り、ドメーヌの看板ワインの1つでもあるこのキュヴェ。ラベルにはトレ・ヴィエイユ・ヴィーニュと記載されている。
「ジュヴレらしい、さくらんぼの香が出ていますね。昔は100%新樽でしたが、今は40%程度に抑えています。何故なら若いうちに飲むと、樽香が強すぎたので。」
何度もこのキュヴェは試飲しており、もっと硬いタンニンを想像していたが、なんともしなやか、清涼感もある。
ジュヴレ・シャンベルタン - プティット・シャペル
「次はジュヴレ・シャンベルタンのプティット・シャペルです。非常にエレガントなワインです。女性的で官能的な味わいです、素晴らしいテロワールですね。グリオット・シャンベルタンと100メートル位しか離れていない畑です。2018年からマダム・ルロワみたいに仕立てを変えて、2メートル程の高さがあります。普通は針金4本使って仕立てますが、6本使っています。そして摘心もしません。」
このプティット・シャペルは非常に官能的だ、という言葉通り非常に妖艶な香りが漂う。味わいも黒い果実、というより赤い果実味が感じられ、酸も有りバランスの良いワインだ。
シャルムとマゾワイエールを比較
「次はシャルムとマゾワイエールを比較しましょう。2004年から分けて醸造しています。何故分けたのかは、飲んで確認してみて下さい。畑自体は200メートル位しか離れていません。マゾワイエールはモレに近い畑で、より奥行、複雑味があってスパイシーな味わい。マゾワイエールは一般的に黒い果実味が全面に出て、力強い印象になるので、新樽の比率を下げたり、色々工夫をしたりして、このようなエレガントな味わい、複雑味を出しています。知名度としてはシャルムの方が上ですが、私のドメーヌとしてはマゾワイエールの味わいに自信があるので、マゾワイエールの方を(シャルムより)高く値付けしています。」
確かにいつもデュガ・ピィのマゾワイエールはシャルムよりちょっと高い。しかしご本人も一番のお気に入りと語るワインだけあり、香り、果実味、複雑味、ミネラル、酸、が混然一体となって口の中に広がる。力強さもありながら、しなやかな果実味、余韻が口の中でいつまでも続く。
比較するとシャルムは肉付きの良い、如何にもジュヴレのグラン・クリュという様。力強いタンニンと果実味が口の中を占拠する。ちなみに2003年まではシャルム・シャンベルタンとしてリリースをしていたが、2004年に貸していたマゾワイエールの畑が手元に戻り、分けてリリースをするようになったとの事。惜しむべきは、その数量で毎年3~4樽(約1,000本)程度しかない。
6. 赤の名手が造る極小量の白
さて、ここで本来であれば試飲は終了する予定だったが、
「ところで皆さんデュガ・ピィの白ワインは飲んだ事ありますか?2004年から白ワインを造ってます。生産量が少ない為、世界でも6か国にしか輸出をしていません。日本には輸出しています。せっかくなので試飲をしてみましょうか。」
と喜ばしい申し出が!
ペルナン・ペルジュレス
「ペルナン・ペルジュレスから試飲しましょう。白にも私が求めている事は味わいのバランスです。白を造る生産者は完全に2つにスタイルが分かれており、早めに収穫をして清涼感やミネラル感をワインに出すスタイルと、遅めに収穫をして重厚感やヴォリュームを出すスタイルとがあります。自分はその中道的な味わいです。」
このワインはペルナン・ベルジュレス村のムスコバックさんという栽培家が所有していた畑で2011年から生産しているとの事。(コルトン・シャルルマーニュも同年から生産開始)まず、ペルナンとは思えない位の重心の低さ、もちろん果実味もありますが、ミネラル感があり、全体の味わいが引き締まった印象のワイン。
ピュリニーのプルミエ・クリュ ル・フェール
「次はピュリニーのプルミエ・クリュのル・フェールです。これこそがピュリニーだと、言える非常にタイトでミネラリーなワインで、レモンとか柑橘系の香も感じられ、エネルギーがありますよね。」
ペルナンを試飲した時よりも更に、重心の低さがあり、タイトなミネラル感がある。デュガ・ピィが所有する白の畑も当然、ヴィエイユ・ヴィーニュという事になるが、赤ワインとも共通するミネラル感を持っている。
シャサーニュ・モンラッシェ モルジョ
「次はシャサーニュ・モンラッシェのモルジョです、樹齢はなんと90歳!トレ・ヴィエイユ・ヴィーニュです。シャサーニュ・モンラッシェのモルジョは非常に大きい畑ですが、その中のプランシモンという区画のワインです。モルジョ修道院のある場所の上に位置する区画です。モルジョ修道院の周辺は土が赤くて、赤ワインに適している区画が多いのですが、この区画はグラン・クリュ街道の斜面の上で、土も白くて、石も多く白ワインに向いている場所なのです。」
話にも出ていたが、モルジョの畑はシャサーニュ・モンラッシェの1級畑の中で最も大きい。その為やはり場所によって味わいが当然異なるが、このワインは柑橘系の果実味と力強いミネラルを持っている。
コルトン・シャルルマーニュ
「最後にコルトン・シャルルマーニュです。このワインの区画はペルナン・ペルジュレスにある教会の向かい側にある南西側に位置して0.3ヘクタールあります。唯一西側を向いているグラン・クリュで、森の影になる場所ですが、暑い年は非常に良く熟します。もともと西側の影にあたる箇所の区画が地球温暖化の影響でブドウが良く熟すようになりました。その為ミネラル感や清涼感がありながらも、熟した果実味がワインに出るようになりました。」
冒頭にもあったが、世界6カ国にしか輸出していない極少量の白ワイン。日本への輸出に関わっているソシエテ・サカグチの坂口さんはデュガ・ピィとは30年近くお付き合いがあり、1番古い取引先だそうだ。世界各国で強い引き合いがあるが、日本には坂口さんとの長い信頼関係がある為、アロケーションもかなり融通しているそう。
私たちワイン専門店も造り手や、流通に関わる様々な方々の努力を経て預かったワインを大切に販売してかないといけないな、と改めて思うものでした。
参考情報:
生産者 - ドメーヌ・デュガ・ピィ: http://www.dugat-py.com/
輸入元 - ラック・コーポレーション:ラック・コーポレーション|ドメーヌ デュガ・ピィ
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