1. コート・ド・ニュイの特徴
ルネ・ブーヴィエの畑と醸造所は全て、ブルゴーニュ地方コート・ドール県の北部、コード・ド・ニュイ地区にある。「黄金の丘」と称されるコート・ドール県にあるだけあり、標高200-400m程度の丘陵地帯にブドウ畑が連なる、圧巻の景色が広がる。南北20kmとあまり大きくないエリアではあるが、ピノ・ノワールで造られる世界屈指の赤ワインの産地として有名だ。比類なきテロワールを誇ると共に、区画毎に個性的で高品質なワインが産み出される多様性に富んだ地域で、多くのワインラヴァーを魅了する地域だ。
大陸性気候で、土壌は場所により異なるが、コード・ド・ニュイは石灰質が多い粘土石灰質が広がり、ピノ・ノワールの栽培に適していると言われている。ワイン産地としては北部に位置することもあり、霜や雹の影響を受けやすく、その年の気候条件がブドウの収量やワインの味わいに差が表れやすい場所でもある。
2. ドメーヌの歴史
今回、お話を伺ったのは、現当主のベルナール・ブーヴィエ氏。
1910年にアンリ・ブーヴィエ氏(ベルナール氏の祖父)がマルサネにドメーヌを設立したのが始まり。1950年代にルネ・ブーヴィエ氏(ベルナール氏の父)が引き継ぎ、畑を12haまで拡大。1992年にはベルナール氏が3代目としてドメーヌを引き継いだ。同氏が継いだ後も畑を徐々に拡大し、2019年には兄の畑も引き継ぎ、今では計30haの比較的規模の大きいドメーヌとなっている。
2006年に新しい醸造設備をジュヴレ・シャンベルタンに設立し、新しい試みを用いたワインの製造を行っている。ワインはAOCブルゴーニュからグラン・クリュまで26種類に亘るラインナップを誇る。
3. 畑の特徴
畑の場所は、北はディジョンから南はヴォーヌ・ロマネまで広がるが、マルサネ、フィサン、ジュヴレ・シャンベルタンに集中している。ルネ・ブーヴィエの畑の特徴を大きく2つ挙げたい。
樹齢が高いブドウ
畑に植わるブドウ木の3/4が樹齢50年~100年だそう。平均樹齢は約50年、ジュヴレ・シャンベルタンには90年以上のブドウ木が複数あり、中には1922年に植えられた木もあるという。ブドウの植え替えにも心血を注ぐ。テロワールを非常に大事にしていることから、畑をクローン管理するのではなく、畑から時間をかけて高品質なブドウを選抜し、枝から苗木を造る「マサル・セレクション」を行っているそう。高品質なブドウ木だけを残し、また古木が大半を占めることから、収穫されるブドウは必然的に高品質で収量が抑えられることになるわけだ。
認証はないが、ビオ栽培
テロワールを大事にするという考えから、畑の生物多様性も重要視しており、2009年からはビオロジック栽培に転換しているが、認証は取得していない。「ビオロジック栽培するのは、働く人の健康や周辺の環境、そしてワインが美味しくなることが目的。商業的な目的ではないので、外にアピールする必要もない。認証取得には手間やお金がかかるので、行っていない」とベルナール氏。認証取得にリソースを割くよりもブドウ栽培に注力したい、という考えだそうだ。如何にも質実剛健といったエピソードだ。
4. 醸造の特徴
ルネ・ブーヴィエはテロワールの個性を表現することを第一にしている。その為、醸造の過程でも果実を大事に扱い、穏やかな抽出を心掛けたり、新樽率は低く設定したりするなど、きめ細やかなアプロ―チを取っている。
収穫日が命
ブドウの質に注目し、最高の熟度のタイミングで収穫することに並々ならぬ拘りを持っている(話をふっても比較的クールな受け答えだが、そこに惑わされてはいけない)。開花から約100日で収穫日を迎えるが、実際の収穫のタイミングは、実際にブドウを食べて、酸味や糖度、味わいなどを吟味して決定する。早すぎても遅すぎても良くない。3日程度で大きな差が生まれるので、収穫日の決定は非常に重要だ。ラボで解析することもあるが、やはりテイスティングが一番重要とのことで、2023年の収穫はテイスティングのみで決断したそうだ。
最高のタイミングで収穫するために、必要な人材もきちんと集める。2023年は9月9日~21日にかけて収穫が行われた。大体10日間で90人程度の人材をかき集めるそうだ。そして、収穫は優しく。ブドウは20キロケースを用い、手摘みで行われる。収穫時の選果に加え、醸造所では振動選果台で不要なブドウを取り除いたあと、手作業で最良の房や全房発酵用の房を分ける作業を行う。選果を徹底的に行うことで、最良のブドウでワインを造ることができるのだ。
抽出は優しく
テロワールの個性を引き出すため、醸造過程ではあまり介入し過ぎない。
選果された果実は、ポンプではなく重力を使うグラヴィティ・フローで発酵タンクに入れることで、果実をつぶすことなく優しく扱う。赤ワインの場合は、50%程度を全房発酵させることで、フレッシュさや骨格、複雑味、余韻の長さが加わる。SO2の添加も極力抑え、発酵は自然酵母で15-20日程度、ピジャージュやルモンタージュをあまり行わず、穏やかな抽出を心掛けている。これらにより、ブドウ本来の香りが花開き、テロワールの表現が可能となっているのだ。
因みに、ルネ・ブーヴィエではSO2の添加は少なく抑えられているが、無添加のものもある。見極め方法はワインのラベル。ラベルが白地のものはSO2が少量添加されているもの、色付きのものは無添加なのだ。ぜひ参考にして頂きたい。
強い樽香は付けない
カーヴに並ぶ樽は圧巻。広いスペースが割り当てられている。新樽の香りはあまり付けたくないという考えから、赤ワインの新樽比率は約20%、白ワインではもっと少ないとのこと。赤ワインは228Lのオーク樽、白ワインは600Lの大樽を用い、1年樽熟成を行ったあと、半年ステンレスタンクで落ち着かせるそうだ。樽はミディアム・トーストもあるが、ライト・トースト主体とのこと。トーストの強い香りも不要ということだろう。
5. 秘蔵のハーフボトル♡
26キュヴェを製造するルネ・ブーヴィエ。今回、多種多様なラインナップからテイスティングをさせて頂いた。
そこで目に飛び込んできたのが、セラーの端の方にあるラックに貯蔵されているハーフボトル達だ。
なんと来客用に、特別にハーフボトルを造っているそう。確かに、テイスティングの数が多くなればなるほど、1種類当たりに必要なワインの量は少なくなる。1本開けて残してしまうよりも、ハーフボトルを使い切る方がよっぽど理に適っている。なるほど、そういうことか~と膝を打ったのだ。
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