Domaine des Sénéchaux

Domaine des Sénéchaux

ドメーヌ・デ・セネショー
ドメーヌ・デ・セネショー

ドメーヌ・デ・セネショー

ボルドーで名高いカーズ家がオーナーに。
2024.02.01
セネショー2人

ボルドーのシャトー・ランシュ・バージュで名高いカーズ家がオーナーに。
前オーナー時代からのチームと二人三脚で高品質ワインを造り出す、マスト・トライなワイナリー!

2024.01.23 --- writer Yamamoto

web サイト
https://www.senechaux.fr/

1. シャトーヌフ・デュ・パプの特異性

ドメーヌ・デ・セネショー(以下、セネショー)があるシャトーヌフ・デュ・パプ。この地域とワインの関係は非常に古く、またフランスの中でも高い名声を誇る、歴史的な産地だ。その特異性を2点抑えておきたい。

▲ 東京からパリ経由でマルセイユ空港まで飛行機で移動後、車で北上。2023年は猛暑の影響か10月でも暑いくらいで、空港を出ると外には大量の蚊が…まさかこの時期に蚊に刺されまくるとは思わなかった(驚)。 ▲ 東京からパリ経由でマルセイユ空港まで飛行機で移動後、車で北上。2023年は猛暑の影響か10月でも暑いくらいで、空港を出ると外には大量の蚊が…まさかこの時期に蚊に刺されまくるとは思わなかった(驚)。

名が表すローマ教皇との深い関係性

14世紀の一時期、ローマ教皇庁がアヴィニョンに移転し、教皇の夏の避暑地としてこの地に城を築いたことから、「法王(パプ)の新しい城(シャトー・ヌフ)」を意味する「シャトーヌフ・デュ・パプ」という地名に。教皇が居を移す前からワインは造られていたが、歴代の教皇がブドウ栽培を奨励したこともあり、品質も知名度も上がった歴史的な場所だ。

セネショーのホームページより。エチケットには修道士が描かれている。 ▲ セネショーのホームページより。エチケットには修道士が描かれている。

フランスの初のAOC認定地域!

▲ シャトー・ヌフ・デュ・パプの畑の地図を見ながら色々と話を伺った。 ▲ シャトー・ヌフ・デュ・パプの畑の地図を見ながら色々と話を伺った。

もう一つの歴史的な注目点は、フランスで初のAOC認定を獲得した地域という点。

20世紀前半に産地偽証などの不正が起こった際、同地域の生産者でもあったバロン・ル・ロワ男爵がAOCを管理する団体(INAO)の前身の設立に寄与し、産地や品種等を規定するAOCの原型を造り上げ、シャトーヌフ・デュ・パプが第一号認定地域になったのだ。因みに、AOCシャトーヌフ・デュ・パプでは収量が35hL/haまでと規定されている。広域のAOCコード・デュ・ローヌは51hL/haなので、如何に収量を抑え質が高められているかが分かるだろう。

2. ドメーヌの歴史

さて、地域の概要をおさらいできたところで、セネショーのお話に。今回お話して下さったのは、醸造責任者のベルナール・トランシュコスト氏と、セネショーと同じオーナーが南仏に所有するワイナリー(Domaine de L’Ostal(ドメーヌ・ド・ロスタル))を担当するレイチェル・パクレ氏のお二人。

左がベルナール氏、右がレイチェル・パクレ氏。 ▲ 左がベルナール氏、右がレイチェル・パクレ氏。

セネショーは19世紀後半からこの地でワイン造りをしていたそうで、150年近い歴史を有する、この地域で最も古いドメーヌの一つに数えられる。時は進み2006年、2人目のオーナーだったルー家から、ボルドーのシャトー・ランシュ・バージュで名高いカーズ家がドメーヌを引き継ぎ、ローヌ地方に初上陸。カーズ家がオーナーになってからも、前オーナーの時代から手腕を発揮しているベルナール氏を筆頭に、この地のテロワールを知り尽くしたチームを残し、ワイン造りが継続されている。

▲ ドメーヌの入口。
▲ 敷地内にある建物にはツタが這っていて、映画のセットに使われそうな雰囲気だ。

同時に、カーズ家がオーナーとなったことで進化も遂げている。例えば、カーズ家のネットワークを使い、ボルドーのランシュ・バージュから質の高い樽を入手することが可能に。以前は比較的早いタイミングで瓶詰めを行っていたが、高品質な樽の入手以降、熟成期間も長くなり、より複雑味のあるワインの製造に繋がっている。

3. 畑の特徴

畑は殺虫剤不使用、化学農薬を用いず、環境に負荷をかけないワイン造りを行っている。面積は26ha(赤ワイン用:23ha、白ワイン用:3ha)。AOCシャトーヌフ・デュ・パプには約3,200haの広大な面積に320程度の生産者がいるそうなので、セネショーは平均の2倍以上の広さを有する規模感のあるドメーヌと言えるだろう。尚、AOCシャトーヌフ・デュ・パプでは、ロゼの生産は認められておらず、生産量は赤ワイン約95%、白ワイン約5%。赤主体の地域だ。

畑から見える街並みに心を奪われる。中世の時代から街並みが変わっていないのではないだろうか。 ▲ 畑から見える街並みに心を奪われる。中世の時代から街並みが変わっていないのではないだろうか。

セネショーで栽培されているのは、黒ブドウ3、白ブドウ4の7品種。栽培面積が最も多いのはグルナッシュ・ノワールで60-70%を占めるとのこと。因みに、AOCシャトーヌフ・デュ・パプでは、黒ブドウ7、白ブドウ6の合計13品種が認められており、フランスAOCの使用ブドウ品種数の中で最多を誇るが、実際に全品種を栽培するワイナリーは少ないとのこと。皆さん、栽培品種を選んでおられるようだ。

至福の試飲タイム。 ▲ 至福の試飲タイム。
赤ワインはブラックチェリーやベリー系の果実の凝縮感が感じられるとともに、ハーブやスパイスのニュアンスも。強すぎない、上品な樽のニュアンスも感じられて美味! ▲ 赤ワインはブラックチェリーやベリー系の果実の凝縮感が感じられるとともに、ハーブやスパイスのニュアンスも。強すぎない、上品な樽のニュアンスも感じられて美味!

因みに、2021年は霜、2022年は雹の影響で収量が落ちたそうだが、2023年は十分な収量だったそうなので、今年の出来が今から楽しみである。

想像以上の大きさの小石(ガレ・ルレ)が転がる土壌!

地中海性気候で、夏は暑く、乾燥しており、冬も温暖な気候。土壌は畑の場所によって石灰質、粘土質、小石、花崗岩等、構成要素が様々だが、今回視察した「ガレ・ルレ」と呼ばれる小石の畑は圧巻!
小石とは言えない程、大きな石がゴロゴロと転がっている中にブドウが育つ。小石は昼間に蓄積した熱を夜間放出し、ブドウの成長を促すという利点がある他、雨が降った後でも水はけの良さから土壌がぬかるむことなく、機械化が可能だそうだ。

▲ 小石とは言え、かなりの大きさの石がゴロゴロと畑を覆いつくしているのがよく分かる。

気候変動でミストラルにも変化が

「ガレ・ルレ」と並ぶこの地域の特徴が、「ミストラル」と呼ばれる風の影響。温暖で乾燥している上に年間160-180日間は吹くというミストラルのおかげで、病気の発生が抑えられ、ブドウが健全に育つ。ただし、ここにも気候変動の影響が…これまで時速60-70km程度の風だったのが、昨今は80-100kmまで強くなっているとのこと。ここまで強い風になるとブドウの枝が折れる等の負の影響が増えるという側面も…

ブドウ畑の奥にある小高い丘は地肌が見えており、乾燥した環境だということが分かる。 ▲ ブドウ畑の奥にある小高い丘は地肌が見えており、乾燥した環境だということが分かる。
ミストラルの影響を抑え、強い日差しからも守るため、ブドウ木は低いゴブレ仕立てに。 ▲ ミストラルの影響を抑え、強い日差しからも守るため、ブドウ木は低いゴブレ仕立てに。

温暖化対策の一環で、畑の作業を見直す

ミストラルのみならず、気候変動は温暖化という形でも表れているが、品種変更という思い切った対策の前にできることが沢山あるという考え方に基づき、畑での作業の見直しが進む。例えば、不耕起で下草を生やす草生栽培を行い畑の緑化を図ったり、フルーツゾーンを除葉せず、葉を日よけとして活用したり(フルーツゾーンの周りに葉があることで風通しが悪くなり、病気の発生が増えるので注意は必要)しているそう。尚、夏に伸びた草は、冬に羊を放牧し草を食べてキレイにしてもらうそうだ。なんて牧歌的…

下草を残している様子が分かる。 ▲ 下草を残している様子が分かる。
訪問時は既に収穫後だったが、一部ブドウが残っていた。小粒で凝縮感を感じる。フルーツゾーンは除葉されていない。 ▲ 訪問時は既に収穫後だったが、一部ブドウが残っていた。小粒で凝縮感を感じる。フルーツゾーンは除葉されていない。

90年代であれば、下草が伸びている様子に「けしからん!」と顔をしかめる人が多かったが、今では生物多様性を大事にしていると認識されるそう。時代と共に人々のメンタリティが変わる様子が分かるエピソードだ。

水不足には最低限の灌漑で対応

元々雨が少ない地域ではあるが、気候変動の影響で水不足も深刻に。灌漑は申請があれば、ヴェレゾン前であれば(8月15日より前)許可されるので、畑の状況に合わせ限定的に実施しているそう。また、カーズ家が持つラングドックのワイナリーも同様に水不足に悩まされており、春先に雨水をタンクにためてワイナリーの清掃に当てるなど、対策を講じているそう。今後、セネショーでも同様の取り組みが行われるかもしれない。

畑にある杭には「シャトーヌフ・デュ・パプ」の文字が。 ▲ 畑にある杭には「シャトーヌフ・デュ・パプ」の文字が。

4. 醸造の特徴

醸造責任者のベルナール氏が列挙した特徴は3つ。

醸造所の入口。ワクワクする門構えだ。 ▲ 醸造所の入口。ワクワクする門構えだ。

① 果実をつぶさないよう手摘みで収穫。これにより、果汁の酸化を防ぎ、微生物の活動が抑制されることで細菌の増殖を防ぐことができる。果実のフレッシュさや健全さを重視していることが分かる。

ブドウの搾りかすも美しい。 ▲ ブドウの搾りかすも美しい。

② 徹底した温度管理とグラヴィティ・フローの導入。発酵タンクの温度管理を徹底し、ブドウ由来のアロマを損なわないようにしている。また、ブドウを収穫してから瓶詰めするまでの過程で、何度か容器を入れ替える際、ポンプを用いるのではなく、重力(グラヴィティ)を使って、高い場所から低い場所に果汁を移動させるグラヴィティ・フローという手法を用いることで、果汁に与える振動を抑え、酸素の巻き込みを減らし、果汁を優しく扱うことに繋がっている。

セメントの発酵タンク。グラヴィティ・フローを用いるため、天井も高い。 ▲ セメントの発酵タンク。グラヴィティ・フローを用いるため、天井も高い。

③ 充分なスペースの確保。ワイナリー運営にはワインの貯蔵や機材の保管等、想像以上にスペースが必要。セネショーでは、充分なスペースを確保することで、焦らずに作業することが可能となっている。カーズ家から導入した樽熟成も、充分なスペースがあるからこそ可能となるのだ。

十分なスペースが確保されているからこそ、各種樽が整然と並ぶ。 ▲ 十分なスペースが確保されているからこそ、各種樽が整然と並ぶ。

これらは全て、果実を丁寧にそして優しく扱うことを主眼に置いたもの。こうした作業を徹底することで、エレガントで洗練された仕上がりになるのだ。

5. ちょっと小耳に…

26haあるAOCシャトーヌフ・デュ・パプの畑以外に、2haのヴァン・ド・フランスの畑があるそう。その昔は、パリの顧客向けにバッグ・イン・ボックスとして販売するための畑だったが、顧客が高齢化したことを受け、2021年より畑を改植。2024年より、ヴァン・ド・フランスのシラーが販売される予定とのこと。今後の展開が楽しみな耳より情報だ。

畑で素敵な笑顔を見せてくれたお2人。ありがとうございました! ▲ 畑で素敵な笑顔を見せてくれたお2人。ありがとうございました!

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