2024.05.02

ワインの五大シャトーとは?基礎知識やドメーヌとの違い、おすすめワインについて解説

 

世界中にファンが多いボルドーワイン。造り手の大半がシャトー○○〇(Château○○〇)という名前をラベルに表記します。
これらを飲み比べるとき、基礎知識や歴史などに触れることで、ボルドーワインがより楽しめるようになるでしょう。
本記事では、シャトーの基礎知識やドメーヌ(Domaine)との違い、おすすめのシャトーワイン3選を紹介いたします。

ワインのシャトー(Chateau)とは?

ボルドー地方でワイン造りを行う場所を『シャトー』と呼び始めたのは、16~17世紀頃。このころ建てられるようになった大規模なワイン醸造所が原型といわれています。もともとシャトーとは「大きな建物」「城」を意味するフランス語です。
その歴史の中で貴族や富裕層が所有者として多く関係することで、どの時代でも豊富な資金が投資されやすく、また早くからイギリスをはじめ海外でも評価され 求められたことで、ボルドーのワイナリーは栄華を極めていきます。やがて畑や醸造施設を持ち、自社で瓶詰までを手掛ける生産者は、大きな建物を一つの象徴として「シャトー」と呼ばれ定着するようになりました。現在ではその規模に関わらず、シャトーとは広い意味で「酒蔵のある建物」ということになっています。

ボルドーワインの造り手の大半はシャトー

上の説明で、ボルドーの造り手の多くにシャトー○○という名がついていることを見てきました。
今なお赤ワインの銘醸地として世界のワイン好きに愛されるボルドー地方。
ボルドーワインの大きな特徴のひとつは、ほとんどのワインが複数のブドウ品種をブレンドして造られるということ。
その年のそれぞれのブドウの出来に合わせてブレンドの比率を変えることで、味わいのバランスを整え、品質低下のリスクを回避する役割も果たしています。
その品質はフランス本国のみならず、イギリスや周辺諸国でも認められ、次第に「シャトー」を冠するワインは上質なワインである、という認識が拡がっていきます。
世界中に認められ、求められる産地となった今でも現地では、土地の特性を活かしたワイン造り、時代に受け入れられる味わいの探求に日々を費やしています。

シャトーの歴史に欠かせない「メドック格付け」とは?

ボルドーワインの歴史には、1855年のパリ万博で制定された「メドック格付け」が深く関わっています。
メドックは地区名。ボルドー地方を流れるジロンド川の、河口に向かって左岸に位置する産地です。
「メドック格付け」とは、1855年のパリ万国博覧会に向け、フランスとして重要な展示品であるボルドーワインを分かりやすさをもって紹介するために、時の皇帝ナポレオン3世の要請によって、ボルドー商工会議所が作成した格付け表とされています。作成には当時の樽での取引価格が参考にされたそうです。
厳密には商工会議所がさらにメドック地区のワイン取引を行う仲買人(クルティエ)の組合にその作成をまるっと依頼したようですね。商工会議所からの依頼は1855年4月5日で、仲買人からの回答がなんと4月18日。2週間足らずのスピード作成でした。短い期間で作成したことで批判的な意見も存在するのですが、実は現地における200年以上に及ぶ商取引の実績がここに関わっており、調べていくとなかなか深いです。機会があればお話しします。
気になる格付けは1級から5級までに分かれており、61のシャトーがここに名前を連ねます。現在、1級5シャトー、2級14シャトー、3級14シャトー、4級10シャトー、5級18シャトーとなっています。
メドック地区産ではないものの、シャトー・オー・ブリオンは古くからイギリスをはじめ広く名前が知られ、評価も高かったために、グラーヴ地区から唯一この格付けに1級シャトーとして紹介されています。

五大シャトーとは?

ここまで約170年にわたる「メドック格付け」の歴史の中で、その格付けを覆したのは、1973年のシャトー・ムートン・ロートシルトが2級から1級に昇格したのみ。現在まで続くわずか5つの1級シャトーは「5大シャトー」と呼ばれ、その高い品質を今なお世界に発信し続けています。
5大シャトーは現在もなおボルドー地方産ワインのブランディングに大きく貢献しており、品質とともに、ボルドーワインを思い浮かべる際のアイコンとしても機能しています。
具体的に「五大シャトー」とはメドック格付けの第1級とされる以下の5つのシャトーを指します。

◇シャトー・ラフィット・ロスシルド(ロートシルト:独、ロスチャイルド:英、とも表記されます。”赤い盾”の意)
◇シャトー・マルゴー
◇シャトー・ラトゥール
◇シャトー・オー・ブリオン
◇シャトー・ムートン・ロスシルド(ほかにもロスチルト、ロッチルドなどはフランス語読みに近い発音表記。今回は、Château Mouton Rothschildの日本語版ホームページの表記 ”ロスシルド” で統一しています。)

これらのシャトーについて以下に解説いたします。

シャトー・ラフィット・ロスシルド

1855年のメドック格付けで、筆頭とされたのがラフィットです。
フランクフルトからヨーロッパ5か所(フランクフルト、ロンドン、パリ、ナポリ、ウィーン)に分かれて金融業で財を成したロスシルド家(パリ)が1968年から所有するシャトー。
優雅で気品あふれるスタイルが特徴で、90年代以降は果実味に力強さも加わり、長期熟成によってヴィンテージやシャトーの個性が更に磨かれ洗練されていく味わいの過程は、どのタイミングで出会っても格調高く素晴らしいものです。 ねっとりと柔らかく上質なリ・ド・ヴォーを蒸し焼きにして、トリュフの香るクリームソースで絡め、キノコのソテーを添えたような料理に、程よく熟成したラフィットを合わせる機会があればきっと忘れられない経験になるでしょう。

シャトー・マルゴー

基本的なイメージは豊潤でありながら柔らかく、口当たりはしなやか。熟成を重ねることで、繊細な絹糸を丁寧に織り重ねたような優美な味わいが口の中に広がる魅力的なワインに育ちます。
フランス革命後、所有者が転々としたことで一時期評判が下降した苦しい時期もありましたが、1977年にギリシャの財閥メンツェロプーロス家が買収し、惜しみない投資と努力を行ない復活。その甲斐もあり、1978年ヴィンテージは「奇跡の復活」との評判を得ることになり現在までその評価を不動にしています。
文豪アーネスト・ヘミングウェイはこのワインを溺愛したことでも知られており、それゆえ彼は最愛の孫娘にマーゴ(Margaux : マルゴーと同じ綴り)と名付けたことも有名です。基本的なイメージは豊潤でありながら柔らかく、口当たりはしなやか。熟成を重ねることで、繊細な絹糸を丁寧に織り重ねたような優美な味わいが口の中に広がる魅力的なワインに育ちます。
フランス革命後、所有者が転々としたことで一時期評判が下降した苦しい時期もありましたが、1977年にギリシャの財閥メンツェロプーロス家が買収し、惜しみない投資と努力を行ない復活。その甲斐もあり、1978年ヴィンテージは「奇跡の復活」との評判を得ることになり現在までその評価を不動にしています。
文豪アーネスト・ヘミングウェイはこのワインを溺愛したことでも知られており、それゆえ彼は最愛の孫娘にマーゴ(Margaux : マルゴーと同じ綴り)と名付けたことも有名です。

シャトー・ラトゥール

ラベルに描かれた塔のシンボルが印象的。ラトゥールとはそのまま「塔」を意味します。
5大シャトーの中ではヴィンテージごとの味わいのバラつきが一番少ないと言われるワインです。はじめ濃密で力強く、しばしば「男性的」と表現されますが、その舌触りはなめらかで、とても洗練されています。時の流れとともにそれぞれの味わいは溶け合い、融合し、奥行を感じるスケールの大きなワインに成長していきます。
畑の土の状態を保てるよう馬による耕作を取り入れたり、有機的な農法に積極的に取り組んだり、伝統を重んじながらも新しい試みにも積極的なシャトーでもあります。
1815年に書かれたある記述に「ラフィットは繊細で、ラトゥールは色が濃くてフルボディ、マルゴーはその中間で安定した品質だが時に硬い」とあるそうです。驚くことに、これは現在栽培されているブドウとは違う品種を使っていた時代の話。既に1級シャトーではそれぞれのスタイルが確立しており、この地方の人がテロワール(土地の個性)は使用品種に優先する、という思想の根拠を垣間見るような気がします。

シャトー・オー・ブリオン

メドック格付けで唯一メドック以外の地区(グラーヴ。ラベル上は1986年からペサック・レオニャン表記)から選ばれたシャトーです。当時すでに広く知られたワインであったこと、実際の取引価格が格付け当時もボルドー地方で上から4番目であったことなどが1級への選定の理由とされています。
きめ細やかな質感と、華やかで仄かに鉱物のニュアンスを帯びた複雑な香り。2000年代に入ってからは味わいの濃度が増し、より洗練されてきており、カベルネ・ソーヴィニヨン主体の5大シャトーの中では、メルローを比較的多くブレンドして造られます。
澱引きの技術や18世紀終わりごろからのシャトーでの元詰め(それまでは樽のままワインを売るのが一般的)、瓶内熟成などはオー・ブリオンが他に先駆けてはじめており、ボルドーワインの品質向上に大きく貢献したシャトーでもあります。

シャトー・ムートン・ロスシルド

1853年からロンドンのロスシルド家が所有。1855年の格付けでは第2級でしたが、その後弛まぬ努力を重ねた結果、1973年に第1級に昇格を果たした唯一のシャトーです。
ワインのラベルには、1945年から 毎年違う(その時代を代表する)画家の作品が採用されており、ラベルのコレクターも存在するほど人気があります。ちなみに1級に昇格した1973年は、惜しくも同年4月に亡くなったピカソの作品が採用されています。
味わいは濃密で酸味も柔らかく、しばしば樽からの香りをしっかりと感じることができます。熟成を経ても、ビロードに例えられるような厚みのある味わいは健在で、時の流れとともに艶と深みを増していきます。
カリフォルニアのロバート・モンダヴィとのコラボレーションで誕生した「オーパス・ワン」は、新旧世界のジョイントベンチャーとして、その後のワインシーンに大きな影響を与えることになります。

シャトーの第二のワイン「セカンドラベル」

これまで紹介してきたような、シャトーを代表するワイン「ファーストラベル」に対して、「セカンドラベル」と呼ばれるカテゴリーが存在します。基本的には、ファーストラベルに使われなかった(ブドウの樹齢が若い、畑の区画に由来する味わいの方向性がファーストラベルに適さない、などの理由で選別された)ブドウで仕立てられます。
これらは同じシャトーのファーストラベルよりも熟成に要する期間が短く、早くから楽しめるものが多いのも特徴です。しかし造りはファーストラベルと同じクオリティで行われるため、それぞれのシャトーの個性などがワインに反映されていて、シャトーごとの特徴を感じることができる点でお勧めができます。
以下でセカンドラベルの特徴をいくつかに分けて解説します。

コストパフォーマンスに優れている

ファーストラベルはシャトーの最高品質を維持するために原料ブドウをかなり厳選して使用します。このことはシャトーのブランドイメージを高め、維持することに大きく貢献してきました。また近年の栽培・醸造の技術向上は目を見張るものがあり、選別で外されてしまったブドウにも優れたワインを造るポテンシャルが十分に備わっています。
実際、セカンドラベルは「二番手」と称するには惜しいほど高品質なワインが多く、比較的リーズナブルな値段で手に入るのも大きな魅力となっています。現在ではセカンドラベルも市場でとても人気があり、サードラベルまで手がけるところが増えてきています。
その際は通常サードワインのほうがさらにリーズナブルな価格設定となるのですが、先述の通り、それぞれのカテゴリーの品質やポテンシャルは上昇・接近する傾向にあり、近年のセカンドまたはサードワインには品質差、というよりも明確なコンセプトの違いを推し出しているものが多いように感じます。

メルローの比率が高い

ボルドー左岸のファーストラベルは、カベルネ・ソーヴィニヨンの比率が高くなる傾向にあります。
先ほどファーストラベル、セカンドラベル、サードラベルのコンセプトが明確になってきていると述べました。多くのファーストラベルについては「長く熟成させることで味わいに深みや複雑さを持たせる」という意図を感じます。それを叶えるためにカベルネ・ソーヴィニヨンは適任です。
対してセカンドラベルではメルローの比率を増やすことで、より果実味に溢れて柔らかく、熟成期間が比較的短くて早くから楽しめるワインが多いようです。このことは親しみやすさ、という点でもとても効果的に思えます。

新樽比率が約50~70%

ファーストラベルの場合は新樽比率が100%というものも多いです。新樽比率とは、ボトリング前にワインを寝かせる(熟成させる)際、新樽を使った割合のことを指しています。例えば、新樽を1樽、古樽を3樽使って熟成し、最後にそれぞれのワインを合わせれば新樽比率25%ということになります。それに対してセカンドラベルは、新樽比率約50~70%と数字が低いことが多いようです。
樽は新しいほどワインに与える影響が大きくなります。樽材を曲げるときには内側を焼いて(蒸気で蒸すこともあり)曲げていくのですが、その際の焼き加減でも影響力や与える香りには違いがあります。一般的には新樽の状態から3年ほどでワインへの影響がほとんどなくなると言われています。ワインが繊細なものだと、新樽比率が多ければその個性が樽由来の香りにかき消されてしまう可能性が高くなります。しっかりとしたワインほど新樽との相性が良いとされるのはこのためです。
樽の歴史は古く、2000年ほど前にケルト人が作り始めたものが起源とされ、当時から今に至るまで製法はほとんど変わっていないそうです。

「シャトー(Chateau)」と「ドメーヌ(Domaine)」の違いとは?

ボルドー地方でいうシャトーもブルゴーニュ地方のドメーヌも基本的に自社畑を持ち、ブドウの栽培からワインの醸造・瓶詰めまで行なう点は同じです。ちなみにシャンパーニュ地方では、自社畑のみで生産しているところは少ないのですが、生産者を「メゾン」という呼び方をします。
以下にシャトーとドメーヌ、名称以外の違いについて簡単に解説します。

◇シャトー:もともとフランス語で城や大邸宅を表す言葉で、かつて城のように大きな造りの醸造所でワインを造ったことでこの呼び方が定着したとされています。
◇ドメーヌ:英語でいうドメインのことで、所有地や区画といった意味をもます。自身の所有地の中でブドウの栽培から瓶詰めまでを完結させるのでこのように呼ばれることになったのでしょう。

おすすめのシャトーワイン3選

それでは今回のおすすめシャトーワイン3選を紹介いたします。

シャトー・ラグランジュ 2021

メドック格付け3級のシャトー。一時期評判を落としたこともありましたが、1983年にサントリーが経営権を獲得。その後設備投資や研究を進めグランクリュ3級にふさわしい評価を再び得るまでに復活しました。
カベルネ・ソーヴィニヨンの比率が高く、果実味とエレガンスにあふれたワインです。若いうち、その味わいは引き締まっており、熟成を経ることで繊細で芳醇な香りと味わいが楽しめます。

ラ・ダム・ド・モンローズ 2017

メドック格付け2級のシャトー・モンローズのセカンドラベル。ファーストラベルと同様の畑、醸造方法で造られます。ファーストが新樽比率60%で18ヵ月間熟成されるのに対し、セカンドは新樽比率30%で12ヵ月間熟成されます。
力強く豊かな黒系果実の香りにトーストやスモークなど樽由来の香りが心地良く溶け合います。

パヴィヨン・ルージュ・デュ・シャトー・マルゴー 2005

5大シャトーの「シャトー・マルゴー」のセカンドラベル。ファーストラベルと同じ伝統的な醸造技術と大樽で熟成させています。
シャトー・マルゴー(ファーストラベル)よりも、3~4ヶ月早く瓶詰めされる。
骨格がはっきりした味わい、気品のある香りで、特級シャトーに匹敵する品質と評価されます。セカンドラベルでありながら熟成することでさらに品質の向上が期待できるレベルの高いワインです。

まとめ

シャトーとは、主に赤ワインで有名なボルドーにおいて、ブドウ栽培から瓶詰めまでをおこなう生産者のことを指します。ボルドーワインの格付けである「メドック格付け」はナポレオン三世の命により、パリ万博に向けて、当時の取引価格と過去の販売データなど蓄積されたものをもとに、仲買人組合によって作成されました。
その中でも第1級に位置する五大シャトーが有名です。どれも高価だがそれぞれの個性が明確でとても高品質なワインです。誕生日など特別な日に華やかな色どりを添えるために飲むのもおすすめです。
また、格付けシャトーのセカンドラベルは飲み頃も早く、高品質なワインをよりリーズナブルに楽しめるという点からもおすすめです。
ボルドーのワインを飲み比べてみたい方はぜひTHE CELLAR online storeをご覧になってください。

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この記事を書いた人

角 敏行

角 敏行 / つの としゆき / Toshiyuki TSUNO

福岡県出身。
都内のフランス料理店、恵比寿「タイユバン・ロブション」、南青山「ピエール・ガニェール・ア・東京」、銀座「ベージュ・アラン・デュカス東京」でソムリエとして研鑽を積み、六本木「リューズ」、駒形「ナベノ-イズム」では支配人兼シェフ・ソムリエとして従事。
現在は自身の会社を持ち、後進の育成、レストランサービスのアドバイザー、また「Champagne Laurent Perrier」、日本酒「F1625」のブランド・アンバサダーとして活動している。